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村田沙耶香「殺人出産」の感想!100年後に価値観は無に帰る

殺人出産 本の感想
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先日、読書女子の知人にバッタリ遭遇!

当然のように書店のショップ袋を持っていて、中にはたくさんの文庫本が入っていました。

その中に、2016年に芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの新刊がありました。

と聞いてると、「エグい話がOKなら『殺人出産』がおすすめ」と言われたので、さっそく読んでみました。

「殺人出産」の感想は、イマイチ…

うすい文庫本で、しかも他のお話も入っている本だったので、本を読むのが遅い私でも、1時間半くらいで読み終わりました。

感想は…すすめてくれた知人には申し訳ないことに、イマイチ…。

ネタバレにならない程度のあらすじを書くと、100年以上先の少子化がさらに進んだ日本で、少子化対策として「10人出産すれば、1人殺すことができる」ことになった社会を描いています。

ディストピア小説ですが、背景設定や、人物描写が粗すぎて、リアリティが感じられないのが残念でした。

ディストピア小説は、ありえない設定の中に、読者を上手に引きこまなければ、おもしろく読めないものですが、そこに失敗してしまっているかなーという感じ。

最後まで、小説の中に入り込めずに終わってしまいました。

ディストピア小説としては新たなチャレンジとも言える

キャンドル

話自体は楽しめませんでしたが、斬新な部分も感じました。

ディストピア小説は、「こんな未来はユートピアとは程遠い」というメッセージが含まれることが多いのですが、「殺人出産」は、そのメッセージは希薄です。

現代人から見ると、明らかに「おかしい未来」を描いていますが、全体としては、その「おかしい未来」が肯定的に描かれます。

これは、作者さんがそういう価値観の持ち主というよりは、「新しいタイプのディストピア小説を作る」というチャレンジだと感じました。

こんな未来おかしいよね?」というディストピア小説にありがちなメッセージを、「こんな未来について考えてみよう」という、中立のメッセージに近づけようとしたのかな、と

100年後には社会は価値観ごとひっくり返る

この本の中で印象的だったのは、こちらの文です。

今から100年前、殺人は悪だった。

物語の中では、人口減への対策として「10人産んだ人は1人殺せる」というシステムは、合理的として、社会に受け入れられていきます。

「たった100年で、社会の価値観は変わるもの?」と思いますが、実は変わるんですよね。

戦前の日本の価値観は、現代日本では考えられないようなものもありますが、まだ終戦から100年も経っていません。

私たちの脳の中にある常識や正義なんて、脳が土に戻れば消滅する。100年後、今地球上にいるほとんどのヒトの命が入れ替わるころには、過去の正常を記憶している脳は一つも存在しなくなる。

これは、未来のシステムを、肯定的に語る時の主人公のセリフです。

このセリフには考えさせられます。

私たちは普段、自分たちが抱いている価値観・正義感を、絶対的なものだと思いがちだけれども、人間の歴史の中で「正義」は、刻々と変化しているんですよね。

価値観が移り行く中でも、人間が絶対的に守らなければならないことは存在するのか?

それとも、正しさというものはすべて、時代によって移り変わっていくものなのか?

ソクラテスとソフィストの対話に似ていますが、価値観の絶対性・相対性というものは、人間とって、永遠のテーマなんだなあ…と改めて思いました。

まとめ

というわけで、小説としてはあまりおもしろくなかった「殺人出産」ですが、考えさせられるテーマはありました。

「ストーリーを楽しみたい!」という方にはおすすめしませんが、「ディストピア小説を読んで世界について考えてみたい」という方には、新たな発見があるのではないかと思います。

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