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森絵都「カラフル」感想!中高生の読書感想文におすすめ!

文春文庫「カラフル」の書影 本の感想
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書店で「中学生に一番人気!」というPOPがつけられていて気になったのが、森絵都さんの「カラフル」。

森絵都さんの本を何か読んでみたいな~

と、ちょうど思っていたところなので、読んでみました!

まずは「カラフル」のネタバレなしの感想を!

まず率直な感想ですが、面白かったです

中学生に人気ということですが、子どもが読んで良さがわかる本って、大人が読んでも深みがあって面白いことが多いんですよね。

名作絵本の奥の深さって、大人が読んでもうならされることがありますよね。

ざっくりとしたあらすじは、罪を犯して死んだ魂が、人生に対して再チャレンジのチャンスを神様(のようなもの?)から与えられて、中学生の肉体に入り込むという設定で始まります。

その魂は記憶喪失のような状態ですが、借り物の肉体で、他人の人生を、他人の家族、他人のクラスメートに囲まれて生きて修行を積みながら、前世の罪を思い出し、その罪の深さを自覚出来たらチャレンジ成功。

チャレンジが成功した魂は、罪を浄化されて、また新しい魂に生まれ変わるサイクルに戻る…と。

以前読んだ「夏の庭」と同じ、「メメント・モリ=死について考える」というテーマが感じられます。

ですが、「夏の庭」が「生きている人間が死について考える」方向なのに対し、「カラフル」は「死んだ人間が生について考える」方向です。

「カラフル」はテーマ自体は結構重いんですが、話全体にどこかコミカルで軽い空気が漂っています。

軽いタッチで、重いテーマを描き切っているところに、作者さんの力量を感じるなあと思いました。

他人のことはわからない!「A.T.フィールド問題」

ここからは作品のネタバレを含みますのでご注意ください!

この作品の一番の根幹部分、自殺した中学生「小林真」に入り込んだ記憶喪失の魂は、いったい誰で、前世でどんな罪を犯したのか?という部分については、

たぶん、この魂自身が小林真本人なんだろうな…

という見当はついていました。

だってそうじゃないと、自分の罪を思い出して魂が浄化されることになったとき、持ち主がいなくなる小林真の肉体はどうなるの?って感じですもんね。

カラフルなマカロン

小林真は家族や初恋の女の子に失望し、本人の性格とも相まって死を選んでしまうわけですが、再チャレンジの過程で、自分が家族について一部分は誤解していたことに気づきます(誤解でない部分もあったけど)。

そこでこう心の中でつぶやきます。

この地上ではだれもがだれかをちょっとずつ誤解したり、されたりしながら生きているのかもしれない。それは気が遠くなるほどさびしいことだけど、だからこそうまくいく場合もある。

要するに、エヴァンゲリオンで出てくるA.T.フィールドの問題、ですかね。

私たち人間は、他者の気持ちを正確に知ることは絶対にできません。

この「心の壁」は、実はこの人間社会に必要なものなのだという考えに、私は同感です。

人間は心の中ではいろんなことを考えていて、その思いの中で、他者に見せていいものだけを見せる。

そうじゃないと、あんな感情やこんな感情が全部お互いに伝わってしまうと、誰ともうまくやっていくことはできないでしょう。

私は他者を正確に把握することはできない

そう考えると小林真のように、他者を理由に自殺なんて取り返しのつかないことをすると、それは取り返しのつかない誤解だった…なんてこともあり得ちゃうわけですね。

桑原ひろかの描き方が面白い!

女の子のバッグ

さて、この作品には長所と欠点を持ち合わせた「普通の人間」がたくさん出てきますが、描き方が一番おもしろかったのが「桑原ひろか」という女の子です。

この桑原ひろかさんは、小林真の初恋の相手。

特別美人というわけではないけど、目を惹くような魅力がある…という設定です。

ですがその魅力の実態は、中学生ながら物欲を抑えられず、お金欲しさに中年男性と援助交際をしているところから来ている感じです。

性的にだらしない、自分のことを名前呼び、語尾伸ばしのぶりっこしゃべり、品のない言動…と、女性読者から見ると、何一つ好感が持てない登場人物。

しかもそれほど美人じゃないという設定なのに、こういう女の子って、男性受けがすごくいいんですよね(笑)。

物語の本筋とは関係ないかもしれませんが、こういう絶妙に「いるいる、こんな子!」と感じさせるリアルな設定が面白かったです。

人生はホームステイという考え方

空と虹

最後に自分が小林真だったことを思い出した魂は、不安になります。

今までは小林真は借りていた肉体で、他人だと思っていたから気楽に演じていたら、家族との関係もそこそこ良くなり、性格も明るくなり、友人もできた。

でもそれは他人事だから気楽にできたのであって、自分のことだと思うと、またうまくできなくなるのではないか…。

そんな小林真に、真をずっとガイドしていた天使のプラプラは短くアドバイスします。

ホームステイだと思えばいいのです。

長い長い地球?もしくは宇宙?の歴史のなかで、自分が自分として過ごすのはせいぜい数十年(人生100年時代の今はもう違う?)。

今、自分は自分の肉体をホームステイ先にしているだけだと、気楽に考えてみればよい、と。

この考え方は自分に行き詰まっているときに、思い出したいですね。

自分の人生を、他人事みたいに外からのんびり眺めてみたら、意外と悩みは大したことではないことに気づくかもしれないし、本当に大変な状況だったとしても冷静に一息つけるかもしれない。

自分の人生がどうにもならないと感じた時にこういう考え方ができるように、このプラプラのセリフは覚えておきたいなあ。

まとめ

森絵都「カラフル」の感想でした。

物語自体は実は結構重いテーマを扱っているんですが、文体がコミカルで、何より読みやすいです。

本をあまり読まない中高生の読書感想文の本としておすすめですが、本好きの大人が読んでも、テーマが深い分、発見が生まれる本だと思います!

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