星新一さんの代表作「ボッコちゃん」を読んだ感想です!
「ボッコちゃん」とは?
「ボッコちゃん」は作家・星新一さんの代表作です。
星新一さんはショートショートと呼ばれる、超短編小説を得意とする作家さんです。
日本を代表するショートショートの作家さんですね。
「ボッコちゃん」もショートショート作品のひとつで、どのくらい短いかというと、新潮文庫版だとたったの6ページ。見開きで3ページ。
2分くらいで読み終わっちゃうくらいの短さです。
たった6ページでゾクっとするような小話になっていて、「ボッコちゃん」はテレビや有名人のSNSなどで紹介され、よく話題になります。
ネタバレなしの「ボッコちゃん」のザックリ感想
「ボッコちゃん」未読で、「読んでみようかな~?」と迷っている方に向けて、ネタバレなしのザックリとした感想を先に書きます。
シンプルに面白いです!
たったの6ページの小話なので、内容について何か書いたら即ネタバレになってしまいそうなので書きませんが、その「面白さ」はどこにあるかというと、「笑えるけど怖い」といったところでしょうか。
読み終わった直後は「笑えるけど怖い」という感じなのですが、もう一度読み直して、いろいろ深く考えてみると、今度は笑えないほど怖くなってくる…。
1~2分で読める短さなので、迷うことないです、ぜひ読んでみることをオススメします!
非常に短いお話なので、電子書籍でサクッと読んでしまうのもおすすめです。
「ボッコちゃん」という物語の怖さのキモは?
さて「ボッコちゃん」は、なぜ怖い物語なのか…ですが、恐怖要素が満載なんですよね。
もう何て言うか…理屈ではなく本能的に怖いことだらけです。
この怖さはどこから来るのかというと…やはりボッコちゃんに心がないことでしょうね。
ボッコちゃんは頭と心がからっぽのロボットなのですが、非常に美人に作られている。
見た目が美しくなければ誰も寄ってこないのでしょうが、美人だと頭と心がからっぽ…要するにそっけなくて冷たくても、それも魅力だと思われてしまう、と。
人々が相手の外見だけを見ていて、内面をろくすっぽ見ていないから、ボッコちゃんがロボット(=心を持たない)であることに気づかないのです。
そしてそのことが致命的な惨事へとつながった…非常に怖い話です。
「ボッコちゃん」の会話パターンが生んだ悲劇
ロボットのボッコちゃんは、シンプルな受け答えしかできませんが、これで会話が成立しているのが興味深いです。
ボッコちゃんの受け答えパターンは「相手のセリフをオウム返しにする」。これがほとんどです。
「きれいな服だね」
「きれいな服でしょ」
「なにが好きなんだい」
「なにが好きかしら」
「ジンフィーズ飲むかい」
「ジンフィーズ飲むわ」
「ジンフィーズ飲むかい」のようなYes/Noで答えられる疑問文には、オウム返しでYesと取れる返しをするようにプログラムされています。
また、一人称を二人称に変換する能力はあるようで、
「ぼくが好きかい」
「あなたが好きだわ」
…のような会話が成立してしまいます。
このボッコちゃんの単純な会話パターンは読んでいてクスっと笑えるのですが、この単純極まる会話パターンが悲劇を生んでしまうのです。
ボッコちゃんに熱を上げてしまった青年との、このやりとり。
「殺してやろうか」
「殺してちょうだい」
これは、ただただボッコちゃんの会話パターンが、疑問文にYesで答えるだけのオウム返しだから成立しただけの会話なのですが、思いつめた青年からすると挑発に聞こえてしまいますよね。
ボッコちゃんが人間だったら青年は思いとどまったかもしれないのに、挑発に乗る形で毒をボッコちゃんに飲ませて…あの惨劇へとつながってしまったのです。
会話パターンは今後のAI社会を予兆している?
少し話はそれますが、今後、進化を遂げていくであろうAIは、ボッコちゃんよりもさらに高度な会話パターンを身につけていくでしょう。
ですが、プログラムできるパターンは有限で、AIが学習できるとはいっても、AIがうまく扱えない会話の領域は存在し続けるのではないでしょうか。
たとえば、AIが心を持つことができない限りは、感情が大部分を占める会話を完璧にこなすことは困難だと思われます。
ボッコちゃんが招いた惨劇は、ロボットであるボッコちゃんが「死」が怖くないどころか、「死」の概念を持っているかどうかも怪しいところにあります。
ボッコちゃんはロボットですが、普通に人間でも、ある程度プログラムされた会話パターンで話すことはありますね。
ボッコちゃんはバーで働く女の子という設定のロボットですが、いわゆるホステス、ホストといった職業の人々は、相手を喜ばせる会話術を身につけているでしょうし、普通に小売店の販売スタッフも、客相手に機械的な受け答えをくり返します。
人間が「素の自分」ではなく、ある役割を演じる場面においては、それなりに会話パターンは決まっている。
そうなると「役割を演じる」という仕事は、AIが代替可能かもしれない…と思えてきます。
しかし、AIがどれほど高度になっても、人間と同じような心・感情を持たない限りは、会話に致命的なズレが生じる可能性があるのかなと思います。
逆にAIが心・感情を持つようになると、人間の支配が及ばなくなる…という別の問題が出てくるかもしれないですけどね。
憎しみは世界を回る?
さて。「ボッコちゃん」は、それほど深読みせずに、非常によく出来たショート・ショートとして読むことも可能でしょう。
ですが、あまりに出来がよい物語なので、つい深読みしたくなります。
どこを深読みしたくなるかというと、「バーにいた人々が全滅してしまったことは何かを意味しているのか?」というところ。
もちろん「なぜ」に対する直接的な答えは、「青年がボッコちゃんに飲ませた酒をマスターが回収し、毒入りだと知らずに皆で飲んでしまったから」です。
その「なぜ」ではなく、ここで考えたいのは、「青年の憎しみが関係ない人々をたくさん死なせてしまったのはなぜか?」という部分です。
青年が憎しみを向けるべき相手は(「べき」というのもおかしいけど)、ボッコちゃん。
ですがボッコちゃんはロボットなので、毒入りの酒を飲んでも死なないだけでなく、青年の憎しみを受けとめる心は持っていません。
毒酒がボッコちゃんをスルーして他の人々に行き渡ったことは、憎しみがボッコちゃんをスルーして、他の人々に広がっていったことの象徴のように見えます。
憎しみは…どこかで止めない限り世界を回り続けるのかもしれない。
青年は、自分がボッコちゃん以外の人々をたくさん死なせたことを知ったらショックでしょうね。
誰かを憎むという感情は、何とかして止めない限りどんどん広がっていく…そんな静かな警告にも取れる話だな、と思います。
まとめ
「ボッコちゃん」を読んだ感想でした。
定期的に話題になるのが納得できる面白さでした。
私は新潮文庫本で読みましたが、「ボッコちゃん」には表題作以外にも星新一さんのショートショートがたくさん入っています。
「ボッコちゃん」以外にも面白い話がたくさんあるので、おすすめの1冊です。