辻村深月さんの「かがみの孤城」を読みました!
辻村深月さんの作品は面白い本が多く、本屋大賞を受賞した本作は、非常に期待して読んだのですが…
予想をはるかに超える面白さでした!
久しぶりにこんなに面白い小説を読んだかも!さっそく感想を書いてみます!
「かがみの孤城」ネタバレなしのザックリとしたあらすじ・感想
「かがみの孤城」は人気作家・辻村深月さんの作品です。
ポプラ文庫では上・下巻に分かれていて、やや長編といえる小説です。
主人公は、不登校になってしまった中学1年生の女の子「こころ」。
「こころ」は鏡の中に異空間にある城を見つけ、そこで自分と同じように不登校になっている中学生たちと出会います。
異空間の城での1年間で、みんなでいろいろな話をしたり、異空間の城の謎について考えたり、大きな困難にぶつかったりしながら、「こころ」と仲間たちの運命が変わっていきます。
ファンタジー要素もある作品ですが、非常に壮大で、シンプルな中学生の成長物語にはおさまりきらない深い作品です。
「かがみの孤城」は本屋大賞を受賞していて、こういった大きな賞を取った作品は、期待が大きすぎて期待外れに感じることもあるのですが、「かがみの孤城」は文句なしに面白かったです!
謎解き要素があるとはいえミステリーではないのに先が気になり、電車を降りた後、しばらく待合室で切りのよい箇所まで読んでしまったほどでした。
「かがみの孤城」は中学生の読書感想文に向いてる?
「かがみの孤城」は中学生が主人公ということもあり、中高生の読書感想文の本として選ばれることが多いです。
ですが「かがみの孤城」は上・下巻と長い上に、物語構成は複雑で、描かれるテーマも単純ではありません。
読んだ後は、即、言葉で表現できるような具体的な感想が頭に浮かぶのではなく、漠然とした言葉にできない気持ちで胸がいっぱいになりました。
「かがみの孤城」は読みやすい文体で書かれてはいますが、後半の物語展開は複雑で、自分だったら中学生の頃には読みこなせないかも…と感じました。
非常に素晴らしい本で、若い世代が読むことはぜひおすすめしたいのですが、学校の宿題の読書感想文を書く本としてはあまり向いてない(たぶん書くのが難しい)というのが個人的感想です。
中高生の読書感想文を書くための本であれば、『夏の庭』や『カラフル』の方がおすすめ。
鏡の中の城は何を示唆するか?
「かがみの孤城」はタイトルの通り、鏡の向こう側にある異空間の城が舞台です。
この異空間のお城に「ワケあり」で学校に行けない中学生が7人、超常的な力によって集められます。
現実世界が居心地の悪いものになってしまっている中学生たちが、この鏡の中の異空間では、いきいきと振舞う様子が描かれます。
7人の中学生は現実世界と折り合いがつかないタイプが多く、みんなが「いい人」というわけではありません。
ですが、城の中は「いい人」っぽく振舞うことが要求されない雰囲気だったため、それぞれが自然体でいられたのかもしれません。
また、それぞれ少しずつ心に傷を抱えた人物なので、他者の痛みにやさしくなれる面があるのかも…とも思いました。
「かがみの孤城」は、鏡の中に入り込むなんていうファンタジー要素がありますが、シンプルな娯楽小説としてのファンタジー要素というよりは、その世界設定に深い意味を感じます。
というのも「かがみの孤城」の世界設定は、ひとりの人間(=水守実生)がある目的(=弟のため)のために頭の中で作った世界が、異空間において具現化したものなんですよね。
実生にとって「かがみの孤城」の世界設定は、何か意味のあることだったはずなのです。
鏡の中の異空間に逃げ込めるというのは、実生から弟やその仲間たちに向けた、「どんな困難な状況でもどこかに逃げ道はあるから諦めないで」というメッセージなのではないかと。
もちろんその逃げ道は、具体的な場所や空間でなくても、他の誰かに助けを求めるといった抽象的なものでもありえるでしょう。
その逃げ道が鏡の中にあるというのは、物語が大好きだったという実生が「不思議の国のアリス」に影響を受けている可能性が大です。
ですがそれだけでなく、鏡の「自分自身を映し出す」「世界を広く見せる」といった役割にも関連しているのかなと思います。
困難からの抜け道は、自分自身と正面から向き合ったり、世界は広くていろんな場所、選択肢、価値観があると気づいたりすることで見つかるかも…そんなメッセージかなと思います。
「かがみの孤城」は物語の終わり方がスバラシイ
「かがみの孤城」が名作であるゆえんのひとつは、抜群に素晴らしい物語構成かな、と思います。
小説はどんなに面白いものでも、終わり方が微妙でガッカリすることが多い私なのですが、「かがみの孤城」の終わり方はあっぱれでしたね!
物語の冒頭から出てくる、「転校生が…」というくだりは、東条萌との関わりを指しているのかと思っていましたが、まさか最後にこころの前にリオンが登場することにつながっていくとは…。
この終わり方にはうならされましたね~。
で、この素晴らしいラストのあとに、エピローグが続きます。
エピローグが続くことに気づいた時には、正直、
せっかく素晴らしいラストだったんだからエピローグなんかつけなきゃいいのに…。
…と思ったのですが、読んでみると、この短いエピローグにまたまた驚かされるという…。
確かに紅茶パックというヒントが出ていたな…とは思いましたが、まさか喜多嶋先生がアキだったとは…これはやられましたね。
何にやられたって、めったなことでは感動モノで涙腺が動かない私でも、グッときました!
仲間を巻き込んででも自殺を図ったアキが、その仲間たちに助けられて、許されて、先に大人になって今度は自分がひとりずつ仲間たちを助けていくんですね。
7人の中学生の中でもとりわけ悲壮な現実を生きていたアキが、自身が助けられることで、他の多くの人たちを助ける存在になる…本当に素敵なハッピーエンドでした。
まとめ
「かがみの孤城」を読んだ感想でした!
リオン以外、誰も現実世界に記憶を持ち帰っていないのですが、いつかリオンがみんなを集めて再会することがあるんでしょうか。
後日談をつい想像してしまいますが、いつまでも物語の余韻に浸っていたい感じの作品なので、後日のエピソードは読みたいけど書かないでほしい…なんて矛盾したことを思ってしまいます。
「かがみの孤城」はポプラ文庫から上下巻に分かれて出版されています。
1冊にまとまったハードカバー版もあります。