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読書感想文の定番「夏の庭」の感想!さわやかなメメント・モリの物語

夏の庭 本の感想
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毎夏、「新潮文庫夏の100冊」の定番となっている本が「夏の庭」。

読書感想文の課題図書としても定番ですよね。

私は、学生時代に「夏の庭」が課題になったことがなく、読んだことがありませんでした。

1990年代の作品なのですが、今でも名作として読み継がれていて、長年興味があった本です。

ロングセラーの本は、内容が良いことが多いんですよね。

そんな「夏の庭」を、ついに読んでみました!

夏の庭は「メメント・モリ」の物語

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さて、「夏の庭」のテーマはいろいろあると思いますが、一番大きなテーマは「メメント・モリ」でしょう。

メメント・モリはラテン語で「死を想え」「やがて必ず来る死から目を背けるな」といった意味で、西洋思想のキーワードのひとつです。

3人組の少年のひとりが、身内の葬式を経験したことをきっかけに、3人は死に恐怖を抱きながらも興味を持っていく。

ちょっとエキセントリックな性格の「河辺」の提案で、今にも死にそうな近所のおじいさんを見張って、死ぬ瞬間を見て、死について知ってやろう…そんな計画が始まります。

そうやっておじいさんを見張る中で、いつしかおじいさんと交流がはじまり、少年たちの友情はさらに深まっていく…そんなあらすじです。

ハートフルな人間どうしの触れ合いも物語の中では描かれますが、「メメント・モリ」が物語の軸であることはぶれません。

余談ですが、この物語を課題図書として読書感想文を書く場合は、3人の友情ではなく、「メメント・モリ」=死をどう考えるか?をテーマに書いた方が、深く考えることができるのではないかと思います。

「思い出」は生き続けるという考えは素敵!

ここからは本の内容・ネタバレを含みますので注意してください!

「夏の庭」で、一番好きだった部分は、主人公たちが仲良くなったおじいさんが、種屋のおばあさんと北海道の思い出話を繰り広げるのを聞いているときに、主人公が心の中で思っていた部分です。

二人が語る思い出話の多さに驚き、思い出が増えていくのなら歳をとるのは楽しいことなのかもな、と思った後の、主人公の感性は素敵です。

そしていつかその持ち主があとかたもなく消えてしまっても、思い出は空気を漂い、雨に溶け、土に染みこんで、生き続けるとしたら……いろんなところを漂いながら、また別のだれかの心に、ちょっとしのびこんでみるかもしれない。時々、初めての場所なのに、なぜか来たことがあるとかんじたりするのは、遠い昔のだれかの思い出のいたずらなのだ。

うーん、お見事…!

私たちは、歴史的出来事が起こった場所に、当時のものは何も残っていなくても、記念碑を立て、観光名所としてわざわざ足を運び、場の雰囲気を味わうことがよくあります。

「思い出」のようなものは、物体と違って、簡単に消えたりしないというのは、私たち人間がある程度共通して持っている感覚ですよね。

この感覚は、誰もが恐怖に思う死を、避けることはできず受け入れていかなければならない…そんな運命を生きる私たちを、支えてくれるかもしれません。

あの世に知り合いが増えるということ

コスモス

「夏の庭」で、最高の一文といえば、最後に主人公の友人・山下が言うセリフだと思います。

夜中に一人でトイレに行くのが恐かった主人公たち3人ですが、交流したおじいさんが死んだあと、山下は一人でトイレに行けるようになった、もうこわくない、と言います。

その理由はこうです。

だってオレたち、あの世に知り合いがいるんだ。それってすごい心強くないか!

「夏の庭」は、単純な感動ものではないですし、完全なハッピーエンド小説ということはありません。

それでも読後感がさわやかなのは、主人公たちの「メメント・モリ」の結論が、読者にも「なるほど!」と思わせるものがあるからでしょう。

あの世に知り合いがいる。

私たちは人生の中で誰かに出会い、その誰かをあの世に見送ることを繰り返していきます。

その回数を重ねれば重ねるほど、そしてその「誰か」が自分にとって大切な存在であればあるほど、少しずつ死の世界はただただ恐ろしいものから、「誰か」が待っていてくれるやさしいものへと変わっていくのかもしれないですね。

中島みゆきの「誕生」で歌われる

わかれゆく命を数えながら…祈りながら嘆きながらとうに愛を知っている

というフレーズにも通じるものがあります。

死があることで私たちは愛を知る。そして、愛を知ることで、少しずつ死はこわいだけのものではなくなってくる。

私も死がこわい子どもだったので、「夏の庭」をもっと子どもの頃に読んでおけばよかったなあと思いました。

「夏の庭」は主人公が書いた小説?

庭

最後に。

主人公の木山は、物語の終わりの方で、将来の夢を父親に聞かれて「物書きになりたい。忘れたくないことを書きとめて、他の人にもわけてあげたい」と答えます。

この「夏の庭」は…木山が大人になってから書いた物語…という設定があるんじゃないかな?と思いました。

感性豊かな主人公の木山をはじめ、傷を抱えつつも好奇心としっかり向き合う河辺、大らかな優しさで読者を何度も癒やしてくれる山下と、登場人物も本当に魅力的です。

読書感想文の定番本と聞くと、安易な感動もの?と思われるかもしれませんが、「夏の庭」は奥深く、読んだ人によっていろいろな感想が残る本だと思います。

読書感想文を書く予定はなくても、ぜひ一度読んでみてください!

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