アガサ・クリスティーの傑作「そして誰もいなくなった」。
あまりミステリー小説を読まない私ですが、本屋さんで「そろそろ読みませんか?」というPOPが立ててあるのを見て、急に読みたくなってしまいました。
POPの力ってスゴイ…。
読破したので、さっそく感想を書いてみます!
「そして誰もいなくなった」まずはネタバレなしの感想!
「そして誰もいなくなった」は、1939年に刊行された推理小説です。
作者は「ミステリーの女王」と呼ばれるアガサ・クリスティー。
「そして誰もいなくなった」は、アガサ・クリスティー作品の中でも最高傑作との呼び声が高い代表作です。
読んでみた感想は…めっちゃ面白かったです!
半世紀以上前の作品とは思えないほど、人間の普遍的な心理をよく捉えていて、ストーリー展開にも惹きつけられます。
私は後半は徹夜で一気読みしちゃいました。朝の6時まで読んじゃった…。
トリックも秀逸で、最後まで読むと「嘘でしょ!?」と気になる箇所を二度読みしてしまいます。
オチを知った後の二度読みで、ようやく納得…と。
で…あらすじですが、知らずに読んだ方が絶対に良いです。ネタバレ厳禁です。
半世紀以上読まれてきた名作ですから、かなりの高確率で楽しめますので、ネタバレなしでとにかく読んでみることをおすすめします!
物語展開がスピーディなこともあり、物語の長さの割には、結構早く読めちゃう感じです。
読書スピードが速い人なら、一晩かけたら読破できちゃうかもしれません。
私の推理は…見事に外れた!
さて、あまりミステリーを読まない上に、大した推理力がないワタクシですが…「そして誰もいなくなった」の中盤までは、
あー、何か犯人わかった気がする。
…だなんて、思いながら読んでいました。
で、この推理は大ハズレでありました!
誰が犯人だと思っていたかというと、執事のロジャーズ。
ロジャーズ夫妻だけは、兵隊島に招かれるまでの場面が、人物目線で描かれていないんですよね。
他の人物は、島に自分から来たのではなく招かれた…ようなモノローグ付きの描写があるので、10人の中でおびき寄せられていないのはロジャーズ夫妻だけなんじゃないかと。
「執事としては一流だけどあまり頭はよくない」みたいな、あまりこの物語には要らなそうな設定があるのも、どうも胡散臭かったし。
ですが…まあ、これは作者が読者にかけたトラップ、「犯人はこの人しかいない!」と見せかけた軽い罠だったのでしょうね。それに易々とハマる私!
で、物語の中盤で、犯人がロジャーズではないことが明らかになった後は、「どうせモリスが一枚嚙んでいるんだろうなあ…」と思っていたら、これも見事に外れた!
ワタクシは絶対、警察とか探偵とかは向いてないですね!
後から読めば確かにその人の描き方は曖昧…
「そして誰もいなくなった」は、最後の一人が死を選んだところまで読んでも、島に招かれた10人は誰ひとり犯人でないように見えます。
その理由は…
…ここがポイントなんですよねえ…。
最後まで読んで犯人がわかっても、「え?その人も普通に島に招かれていたし、心の中で他の人を犯人だって疑ってなかった?」と、キツネにつままれたような気持ちになります。
ですが、犯人が登場しているシーンをひとつひとつ注意深く読むと…かなり曖昧な描き方になっていて、犯人だとわかってから読むと、違う風に読めるんですね。
たとえば第13章のウォーグレイヴ判事のモノローグですが…
誰だって、死ぬのはこわい…わたしだって、こわい…
とか、
あの娘だな……娘から目を離してはいけない
などという部分は、ネタバレなしに読むと「ウォーグレイブ判事も状況に怯えていて、犯人がヴェラだと思っている。だからウォーグレイブは犯人ではない」と読んでしまいます。
ですが後から読むと、「死ぬのはこわい」のは、ウォーグレイブは病気で死期が近いから…だったんですよね。
ヴェラから目を離さないのは、ウォーグレイブは集めた9人の標的の罪の重さに優劣をつけていて、ヴェラの罪は特に重いと考え、なるべく長く恐怖を味わせようと目をつけていたから…だったと。
後から読めば、物語の最初にウォーグレイブが登場し、次にヴェラ、ロンバード…この三人の重要人物が、重要な順に登場するようになっていますね。
ウォーグレイブの登場シーンも、後から読み直すと、「招かれた風」には描いてあるけど、招かれたという断定はできない描き方になっている。
このあたりが「ミステリーの女王」の真骨頂なのでしょう。
犯人の人物像のおそろしさ
「そして誰もいなくなった」は、童謡の歌に沿ってひとりずつ消えていく過程が「もしも自分がその中にいたら…」と思うと恐ろしいのですが、最後にもう一度ゾワッとくるのが、犯人ウォーグレイヴの人物像です。
手記で告白するように、犯人には加虐趣味と正義感が同居している。
自分の価値観で審判を下す形で人の生命を自分の思い通りにする。…これはまるで、神…。
神は自らが作る教義(『神だから正しい』というのが前提だけど)に則って、人間を裁くわけですからね。
デスノートの主人公・夜神月もこのタイプに思えます。
優秀な人間が神を演じたいと抱く欲望…。
どんなに優秀な人間であっても、人間である以上その価値観は相対的なもの…間違っている可能性はあるわけですから、人間が神を演じるのは本当に恐ろしいことだと感じます。
また、ウォーグレイヴは死期が近いことで、やや冒険的な気分になり、長い間の願望を実行に移すことになります。
死期が近い人間の、我が身の危険を顧みない思い切った暴挙…これも非常に恐ろしいです。
これは手塚治虫の「MW」の結城に通ずるものがありますね…。
ウォーグレイヴのように、神を演じたい優秀な人物が、死期が近くなって欲望のタガが外れることの恐ろしさ。
平穏な日常を生きている私たちは、その恐怖に対抗できるのだろうか…?
「そして誰もいなくなった」が時代を超えた名作であるゆえんは、現代人でも抱く普遍的恐怖を描いているところにもあるのでしょう。
まとめ
「そして誰もいなくなった」の感想でした。
普段ミステリーを好んで読まない私でも、かなり面白く一気読みしてしまいました。
やはり名作には名作たるゆえんがある…改めて感じさせてくれた1冊です。