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「風が強く吹いている」読書感想文。駅伝の美しさが伝わる箱根駅伝のおとぎ話

本の感想
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三浦しをんさんの「風が強く吹いている」を読んだ感想です!

「風が強く吹いている」ネタバレなしのあらすじと簡単な感想

「風が強く吹いている」は、人気作家三浦しをんさんが書いた、箱根駅伝をモチーフにした小説です。

箱根駅伝小説ということで、冬休みに学校の課題図書になることも多いですね。

貧乏アパートに住む10人の大学生が、リーダー格の清瀬の夢に強引に付き合わされる形で、箱根駅伝を目指すストーリーです。

よく課題図書になることから、友情が全面に出た作品なのかと思っていましたが、読んでみると「友情はそれほど大きなテーマではないのかな?」と感じました。

困難な夢を友人同士で手を取り合って追いかけるというより、十人十色の個性的な登場人物たちが、それぞれの立場からマイペースに箱根駅伝への夢に乗っかっていくという感じです。

物語は全体として明るく、ギャグテイストも交えながら進み、読みやすいです。

「速く」走るのではなく「強く」走る…陸上だけではなく、人生全体への問いかけになっているような、このあたりの概念がこの小説のキモなのかなと思います。

後述しますが、主人公サイドに対する悪役が登場する部分が私はどうしても好きになれませんでしたが、ストーリー自体は先が気になる面白さで、さすが人気作家の筆力と感じます。

また、箱根駅伝をよく知っている人から見ると、ストーリー展開はちょっと漫画じみているかもしれません。

登場人物のキャラが漫画っぽいのも含めて、そういったあたりは好みが分かれるところだと思います。

一人一人のレース心理を描く場面は読みごたえ十分!

ここからは「風が強く吹いている」のネタバレを含む感想になりますのでご注意ください!

「風が強く吹いている」で一番面白い部分は、箱根駅伝のレースが、主人公の寛政大チームの一人一人の心理を描きながら進む場面です。

箱根駅伝がはじまるまでは、脇役のようなポジションだった登場人物たちも、走り出すと、人生や性格などが事細かに描かれ始めます。

松任谷由実がマラソンをテーマに歌ったと思われる「Carry on」という歌で「決して孤独は代われない」と歌いますが、長距離走は孤独なスポーツでその孤独さはどこか人生に似ています

「風が強く吹いてくる」のランナーたちが、走りながら己の人生に思いを馳せるのは、とても自然なことのように感じられました。

実際に真剣勝負のレースを走っているときに、自分について振り返ったりすることはないのでしょうけど、なぜだかとてもしっくりと胸に染みこんでくるような描き方でした。

そして、彼らが走っているのはマラソンではなく集団競技である駅伝なので、孤独でありながら孤独でない

駅伝の美しさを非常に上手に描いているなあ…と感動した場面でした。

勧善懲悪的なストーリーがちょっと残念…

物語自体は面白く、駅伝の美しさが伝わってくる「風が強く吹いている」ですが、残念な点がひとつ。

主人公サイドに対する「悪役」「引き立て役」の描かれ方がちょっと単純だな…というところです。

主人公たちの寛政大陸上部に対する悪役は、東体大陸上部。

特に蔵原走の高校時代のチームメート榊は、あまりにも描き方が悪役として安易すぎるかなあ…。

榊が蔵原を嫌いなのは当然だと思います。しかし、あんなに露骨に嫌いな相手、しかも嫌いな相手のチームにまで嫌がらせをする人物にはリアリティがなく、何だか道具みたいなキャラだったなあ。

蔵原の両親や清瀬の父親も、物語の引き立て役という感じ。

息子が陸上選手として成功するという期待が外れたからといって、露骨に息子に関心がなくなる親って…ちょっと物語に都合よすぎる設定に思えます。

箱根駅伝ファンにおすすめする本かどうか?

さて、実は私はそこそこの箱根駅伝ファンです。

最近はそれほど熱心には見ていませんが、駒大や順大が強かった頃は結構よく見ていました。現在の中央大監督の藤原も、現役選手時代はすっごくファンでした。

私のような「そこそこ箱根駅伝を知っている」というタイプから見ると、「風が強く吹いている」のストーリーはおとぎ話のような感じです。

陸上経験者が3人しかいなくて、しかも5区山上りでブレーキを起こしたチームが、シード権を取れるほど箱根駅伝は甘くありません。

その意味で箱根駅伝に詳しい人が読むと、「この展開はないよ…」と思っちゃうかもしれません。

箱根駅伝のリアルに近い物語を期待するという読者にはあまりおすすめできないかな~。

私もレース展開自体はリアリティがないと感じましたが、前述したように、レースを走る一人一人の描き方が面白かったため、レース部分も楽しく読めました。

まとめ

「風が強く吹いてくる」の感想でした。

物語の展開はテンポがよく、先が気になる面白さがありますが、悪役の存在や箱根駅伝のリアルに欠ける部分は、評価が分かれる物語かなと思いました。

「風が強く吹いてくる」は課題図書になることも多いですが、中高生の読書感想文の本としては、ややテーマが大人っぽくて難しいところがあります。

ぽこ
ぽこ

私は中高時代にこの本で読書感想文を書けと言われても、どんな内容で書けばいいか困ってしまうかも…。

「何か感想を書かなきゃ…」と身がまえて読むよりも、三浦しをんさんの軽いけどどこか深い文章を、のんびりとした頭で楽しむのが向いている物語かな、と思います。

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