高校野球の記事を読んでいる時に目にして、ずっと気になっていた一冊がこちら。
ようやく読めたので、感想を書いてみます!
「オレたちは『ガイジン部隊』なんかじゃない」は、どんな本?
「オレたちは『ガイジン部隊』なんかじゃない!~野球留学生ものがたり~」は、高校野球における「県外野球留学」について、実名を挙げた取材でまとめた本です。
著者は「野球部あるある」などを書いた、高校野球ライターの一人である菊地高弘さん。
菊池さんの本は初めて読みましたが、高校野球にまつわるネットスラングも使いこなし、よく高校野球を知っていらっしゃって、カラッとした明るさと愛のあるライターさんだな~と感じました。
2012年夏の岩手大会決勝で、大谷擁する花巻東に勝った盛岡大付に、スタンドから野球留学に関する心無いヤジが飛んだのを耳にしたことがきっかけで、高校野球の野球留学というテーマに取り組むことになったそうです。
本書に登場する高校は、八戸学院光星(青森)、盛岡大付(岩手)、健大高崎(群馬)、帝京(東京)、滋賀学園(滋賀)、石見智翠館(島根)、明徳義塾(高知)、創成館(長崎)。
帝京だけは野球留学のイメージがないので「ん?」と思いましたが、近年寮ができて方針が切り替わりつつあり、そのあたりの取材になっています。
本が出版されたのは2020年4月。2020年はコロナ禍で春夏の甲子園大会が中止された年です。
2020年に甲子園がなかった3年生世代に、まだコロナ騒動が起きていない2019年秋冬に取材しているチームもあるため、その先の甲子園中止を知っている身で読むと切なさもあります…。
野球留学校のイメージは必ずしも正しくない
この本が一読の価値があると感じたことのひとつが、一般的に思われている野球留学校のイメージは必ずしも正しくないことがわかる、ということです。
県外選手の多い高校野球チームは、「資金が豊富で設備が豪華な私学」「有名選手をごっそりスカウトする」…と思われがちです。
ですが、本書で取り上げられている高校の中には、それほどスカウトを熱心に行っていないチーム、設備に恵まれていないチームもあります。
特に野球留学とスカウトの問題はごっちゃにされがちですが、過剰スカウトと越境入学はまったくの別問題で、県外選手のほとんどはスカウトではなく、中学チームの縦のつながりで入学してくるというケースもあります。
少子化により野球留学が必要になる地域も…
一般的な野球留学のイメージが間違っていることの極めつけは、公立でも野球留学がさかんに行われている地域があるということです。
少子化が深刻な地域では、地元の子どもたちだけでは学校の存続が危ういため、県外の子どもたちを積極的に受け入れている…というわけです。
若い人口が増えるということは、それだけでも町の活性化につながるため、とてもよいアイディアだなと感じます。
高校野球では、公立というだけで応援されたり、県外出身者が多いというだけで叩かれたりすることがありますが、実情はそんなに単純ではありません。
野球留学はなぜ叩かれるのか?
さて、本書に登場するチームの監督さんたちの多くは、「こんなグローバルの時代に『県外出身者はけしからん』という考えは古い」とおっしゃいます。
私もまったく同感であります。古い以上にムナシイとも思います。
自分の生まれ育った地域を愛すること自体は悪いことでも何でもありませんが、ぶっちゃけ自己愛の延長ですよね。
自己愛は単に自分の問題なのであり、その自己愛を満足させるために、他人に何かを押しつけるなんてできるわけがない。
また、本書では「神奈川では野球留学生に『神奈川に来てくれてありがとう』という声が飛ぶ」という話が出てきますが、鉄道網が発達した首都圏では電車で県境などすぐ越えてしまうため、越境入学という言葉はピンときません。
首都圏在住の私は、東京大会や神奈川大会をよく見に行きますが、野球留学に関するヤジは一度も聞いたことないです。
ただし出身である南九州では…「〇〇は県外選手が多いから応援しない」という言葉はよく耳にしていました。
このあたりはお国柄といいますか、住んでいる場所によって感覚の違いはあるのでしょうね。
県代表を楽しむ層とのバランスはどう取ればよい?
私が野球留学を否定する側の言い分として、唯一理解できるのは、本書に登場する帝京の前田元監督が、長らく野球留学生を取らなかった理由です。
高校野球には昔から地域の特色が色濃くあって、東京には東京の野球の色があると思っていたんです。東京から甲子園に出て、全国のさまざまな地域色のチームと戦うのを楽しみにしていました
…要するに、高校野球には各地域の特色があり、甲子園が春は地区対抗、夏は都道府県対抗であることで、各地域のカラーを持ったチームが彩る華やかさがある…ということですね。
確かに高校野球の地域色というのは、最近は消えてきたかなあ…。
帝京が最盛期だった1990年代頃は、中国地方は細かい野球、四国はエース中心の守りの野球、大阪は大型チーム、東京は打ち勝つ野球…みたいな地域色は、確かに存在していたかもしれません。
サッカーW杯のように、ブラジルは攻撃型、イタリアは守備重視みたいな地域色があった方が盛り上がるのは確かです。
こういった地域色が失われていった理由は、個人的な考えでは越境入学というより、野球の高度化とスカウト合戦の過熱で、選手の能力に根差したバランスの良いチーム作りをする強豪校が増えたためだと思っています。
とはいえ、たとえば大阪代表にほとんど大阪出身者がいないのに、他県には大阪出身者が大半というチームがあるという構造は、地域色を失わせるのに一役買ってしまう…というのは否めないかなと思います。
「野球留学はまったく問題ない」というのが私の立場ですが、高校野球の地域色を楽しみたいという層と、どう折り合いをつければよいのか…というのは難しいです。
もちろん高校野球はファンのためのものではないので、「楽しみたい」なんて気持ちに配慮する必要はないのかもしれない。
それでも「文化としての高校野球」を考えた時に、何かを守った方がいいのかその必要はないのか…現段階で、このことに関する結論は私の中で出ていません。
まとめ
「オレ達は『ガイジン部隊』なんかじゃない!~野球留学生ものがたり~」を読んだ感想でした。
印象的だったのは、現場の野球留学をしている高校生たちは、「外人部隊」という悪意ある言葉を、それほど気にしていないということでした。
必死で高校野球に打ち込んでいて、そんなどうでもよいことは気にならない、と。
最近の高校野球では「外人部隊」や「投げすぎ問題」、ちょっとしたグラウンド内でのアクシデントや握手するのしないのといった問題など、当事者たちがそれほど気にしていないことを、外部が騒ぎ立てる…そんなことが多いなあ…と改めて感じました。
高校野球ライターの中には、アンチが喜びそうなアクセス稼ぎの記事を書くだけの人もいたりするので、本当の高校野球ファンはそういうものに振り回されないようにしたいところです。
この本の著者である菊地高弘さんは、「野球留学OK」という立場から本を書かれていますが、堅苦しく自分の考えを押し付ける感じもなく、ゆるいイラストも添えてあり、非常に読みやすい本でした。
グイグイ読ませる文章力もあり、車で明徳義塾に向かうシーンは、読んでいて車酔いしそうになるような臨場感がありました。
高校野球ファンであれば、若い世代から大人まで、幅広い世代が興味深く読める本だと思います。