中野京子さんの「怖い絵」シリーズの一番新しい作、「新怖い絵」を読んだので、感想を書いてみます!
「新怖い絵」は怖い絵シリーズの4作目!
「新怖い絵」は、中野京子さんの人気シリーズ「怖い絵」の4作目です。
表紙が既に美しいながらも怖い…。
「怖い絵」は主に西洋絵画の名作を取り上げて、作品の裏側に隠されたエピソードや、こんな観点から見ると違う風に見えてくる…といった話を、中野京子さん独自の鋭い感性でつづるシリーズです。
「新怖い絵」も、他の「怖い絵」シリーズと同じように角川文庫版が出ていて、手に取りやすいです。
怖い絵シリーズは順番に読んだ方がいい?
「怖い絵」シリーズの4作目である「新怖い絵」には「新」がついているため、
今までの「怖い絵」と違うのかな?
と思いましたが、読んでみると、今までの「怖い絵」シリーズとほとんど同じ構成でした。
前の3作では取り上げられていない画家の作品が何枚か取り上げられていて、「新」というタイトルはそのあたりに込められているようです。
「新怖い絵」は怖い絵シリーズ4作目となりますが、前の3作から順番に読んだ方がいいということはありません。
ひとつの章につきひとつの絵画にスポットを当て、前後の章とつながらずに独立しているため、何作目から読んでも本の中の章をどこから読んでも楽しめます。
ただごくたまに、前作で取り上げた絵画のエピソードがちょこっと出てくることもあります。
もし「怖い絵シリーズを全部読んでみようと思うんだけど…」という気持ちがあるなら、どうせなら1作目から順番に読むのがベターですかね。
ちなみに怖い絵シリーズの順番は…
- 怖い絵
- 怖い絵 泣く女篇
- 怖い絵 死と乙女篇
- 新怖い絵
と、なります。
「新怖い絵」であの名作が違って見えてくる…
「新怖い絵」では、よく知られた有名作品から、初めて名前を聞いたという画家の作品まで扱われています。
有名作品だとミレーの『落穂拾い』や、フラゴナールの『ぶらんこ』。
どちらも世界史の教科書などでおなじみの絵ですが、『落穂拾い』が共産主義的な絵だと誤解されて保守派から忌み嫌われたとか、『ぶらんこ』には主役女性の夫と愛人が描きこまれているとか…
「怖い絵」シリーズの醍醐味である、
そんな目で見たら作品の雰囲気が違って見えてくる!
…を存分に味わえます。
また中野京子さんの
結局、イデオロギーがあろうとなかろうと、いいものは残る。だからクールベも残り、ミレーも残った。嫌みな男ボードレールも。
こんな感じの、小気味よい文章も相変わらず光りますね。
パンデミックに考えさせられる2つの絵
2021年現在、世界はパンデミックの真っただ中にあります。
そんな状況だからこそ、興味深く読んだ章がドローネー『ローマのペスト』。
天使が悪魔を従えて、人々に疫病をもたらす様子が描かれています。
本来、真逆の存在であるはずの天使と悪魔がタグを組む様子は、感染症に襲われる世界では、人は加害者(=他人に伝染させる)であると同時に被害者(=病に倒れる)であることを象徴している…
中野京子さんのこの鋭い指摘にはハッとさせられます。
逆にパンデミックにおいては、人間は加害者でも被害者でもなく、悪魔でも天使でもないという考えが大事になるのかもしれませんね。
また最後の章で扱われるゴヤ『鰯の埋葬』では、ゴヤは不幸なスペインの歴史を目にしながら、民衆の心に寄り添いつつも、完全に民衆側だったわけではないことが指摘されます。
むしろ民衆の愚かさ、影響されやすさに絶望していたのではないか。この『鰯の埋葬』はその絶望のあらわれのようにも感じられる。
…考えさせられますね。
私たちは天災であるはずのパンデミックを、自分たちの愚かな行動によって人災にまで広げてしまわないように、過度に恐れず、過信もせず、冷静に対処していきたいものです。
数世紀後の人類に、負の歴史として語られないように。
まとめ
中野京子さんの「新怖い絵」を読んだ感想でした。
やっぱり中野京子さんの本は面白いなあ~。
これで怖い絵シリーズは全部読んでしまいましたが、機会があったら、中野京子さんの他の美術本も読んでみたいです!
「怖い絵」の他のシリーズを読んだ感想はこちら!