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湊かなえ「贖罪」の感想・レビュー!贖いではなく復讐の物語?

本 贖罪 本の感想
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時々、無性に「女の嫌な部分を書いた小説」を読みたくなります。

これ、何の衝動なんでしょうねー。私自身は、女子力が低く、あまり女どうしの争いに巻きこまれないタイプなんですけどね。

「女の嫌な部分」を書くのが上手な人気作家といえば、桐野夏生さん、辻村深月さん、湊かなえさん。

今回は、湊かなえさんの「贖罪」を読んでみました。

「贖罪」はエドガー賞ノミネートやドラマ化もされた作品

湊かなえさんの作品は、デビュー作にしてベストセラーとなった「告白」が最も有名です。

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その後も、出す本のほとんどがベストセラーとなり、売れっ子作家となっている湊かなえさん。

今回私が読んだのは、湊かなえさんが2009年に、3作目として書き上げた「贖罪」。

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「贖罪」は、小泉今日子さん主演でドラマ化されたり、受賞は逃したもののアメリカのエドガー賞にノミネートされたりと、湊かなえさん作品の中でも、代表作といえる作品です。

まずは「贖罪」のネタバレなしのザックリ感想

かんたんに「贖罪」の感想を書きますと、今まで読んだ湊かなえさん作品の中では、一番おもしろかったです。

今まで読んだ作品は、「告白」「少女」「白ゆき姫殺人事件」「母性」「豆の上で眠る」です。

湊かなえさんの作品は、作者さんの文章がうまいのと、ストーリー展開がスピーディなので、スラスラ読めます。

その反面、私が苦手に感じる部分があります。

「ん?それはできすぎじゃない?」と思うような、リアリティを感じない偶然が作品のオチ、ということがあるのです。

「贖罪」もそういう部分はないわけではありませんが、許容範囲だったため、最後まで面白く読めました。

花

あらすじは、地方都市で起こった少女殺人事件が軸になります。

犯人の顔を見た、少女の友人4人が、被害者少女の母親に「あなたたちの記憶が頼りないから犯人がつかまらない!この罪を償いなさい!」と言われたことをひきずりながら、それぞれが重いものを背負った人生を送る話です。

暗いですね(苦笑)。でも、暗いだけでなく深みがあります。

読後感はそこまでは悪くないので、「イヤミスは苦手」という人でも読める小説だと思います。

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ネタバレありの「贖罪」感想

この先はネタバレを含みます。ネタバレしたくない方は、この先の記事は読まないでね!

「贖罪」は、5人の視点から、それぞれ物語が描かれます。

とある田舎町で起きた、少女が性的暴行を受けて殺害された事件。

被害者少女のお母さんから「償いなさい」と言われた、少女の友達である4人の若い女性。

それから、4人に重い十字架を背負わせてしまったことを償いたい、被害者少女の母親。

この5人が、物語の主要人物です。

心の闇と共に暗転していく4人の女性たちの「贖罪」

被害者少女の友人だった4人の女性は、少女殺害事件に間接的に巻き込まれてしまった結果、もともとの性格や能力、人生の中で抱えていた小さな問題を、大きな心の闇へと育ててしまいます。

紗英は「大人の女性になりたくない」という闇。

真紀は「しっかり者だと思われているけど自分は本当は臆病だ」という闇

晶子は「人生では身の丈以上のものを求めてはならない」という闇

由佳は「私は誰にも見てもらえない」という闇。

それぞれの女性が、誰でも抱えているコンプレックスや小さな不安を、事件と、事件のことで彼女たちを責めた被害者少女の母親の言葉で、ふくらませていく様子は、非常にうまく描かれています。

小説の世界に引き込まれるように、一気読みしてしまいました。

そして、その心の闇にとらわれた結果、全員、人殺しをしてしまいます。

まるで少女殺害事件の「償い」であるかのように、殺した相手はすべて男性、しかも、暴力的・性的なものとつながる男性です。

被害者少女の母親・麻子の「贖罪」

私は、被害者少女の母親(麻子)は全ての黒幕で、4人の女性の人生を監視しながら、上手に殺人まで導いていたのではないかと推理しながら読んでいました。

たとえば紗英が殺害する人形マニアの夫は、麻子がお見合いをセッティングしているのです。

真紀の小学校に現れて、真紀に殺された形になる暴漢も、麻子が送り込んだのではないかと。

むしろ、少女が殺害された事件も、実は麻子が犯人の男を雇って、本当は実の娘ではないエミリを殺させたのではないかと考えていました(「両親とエミリは顔が似ていない」ということが作中で示唆されていたので…)。

それで、その罪の意識にたえられなくなって、罪を4人の友人に転嫁していったのではないかと。

ハイ、この推理は大ハズレでした!

花

むしろ麻子は、自分が勢いで言ってしまった「償いなさい」が、4人の人生を追い詰めたことを悔やみます。

エミリは麻子の実の娘ではありますが、父親とは血がつながっていません。麻子が結婚する前の元カレの娘です。

詳しい説明は省きますが、その元カレが麻子に恨みを持っていて、麻子への復讐のために、麻子の愛娘エミリを自分の娘だとは知らずに、暴行した上で殺害するのです。

犯人が元カレだったことに行きついた麻子は、自分の「贖罪」を果たすために、この元カレ・南条に、エミリは南条の子であることを告げます。

物語はここで終わりますが、南条は、実の娘に手をかけた事実を知り、自殺したであろうことが何となく示唆されています。

麻子も、他の4人と同様に、男性を死に至らしめることで「贖罪」を果たすというわけです。

これは「贖罪」ではなく「復讐」の物語では?

4人の女性が、エミリ殺害事件の犯人と共通点を持つ男を死に至らしめる。

4人を追い詰めた麻子が、エミリ殺害事件の真犯人を死に至らしめる。

そして、それが事件全体に対する「贖罪」。

非常によく練られている小説ですが、唯一気になるとしたら、「贖罪」というタイトルですね。

これって「贖い」ではなくて「復讐」ではないですかね?

「贖罪」とはキリスト教用語で、自分が犠牲になって、他の人の罪を清算することを指しますよね?イエス・キリストが、十字架に掛かったのは、全人類の罪を贖うためです。

そうすると、この物語に「贖罪」という言葉が、何となくしっくりこないんですよね…。

それとも、4人が麻子の罪を代わりに背負ったという意味なのかなあ?それはあんまりピンとこないなあ…。もっと深くて、人間というものは、お互いに罪を背負いあう生き物ということなのかしら。

私には、そこまでの深みは物語から読み取れなかったので、やっぱりタイトルはしっくりこないかな。

最後にタイトルに対するもやもやを書いてしまいましたが、ストーリー自体はおすすめできる1冊ですよ!湊かなえを初めて読んでみるという方にもおすすめです。

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