手塚治虫の「火の鳥シリーズ」を久しぶりに再読しました。
火の鳥シリーズの最初の巻である黎明編は1968年に始まり、最終巻の太陽編は1988年に完結していて、20年の歳月を経て描かれています。
20年もかかって描いているので、火の鳥シリーズは物語によって絵や雰囲気がかなり違います。
黎明編から太陽編まで全部で12巻の火の鳥シリーズは、人によってどの物語が面白いか好みが分かれるでしょう。
久しぶりに再読してみて、私はどの物語が好きなのか、自分用火の鳥ランキングを作ってみました!
カウントダウン方式で、順位が下の方から発表していきます!
12位 太陽編…唯一面白く感じないシリーズ
まず12巻中12位…つまり、火の鳥で私が一番イマイチだと感じている物語は太陽編。
火の鳥シリーズの最終巻となった作品で、シリーズの中で一番長い物語、角川文庫版だと上・中・下巻と分かれていてます。
古代と未来の物語が交互に描かれるという凝った内容になっていて、おそらく作者の気合は入っているのでしょうが…。
私が太陽編を楽しめない理由は…
…こんな感じかなあ。
火の鳥シリーズではっきりと「面白くない」と言えてしまうのはこの太陽編だけです。
太陽編が火の鳥のファンに特に人気がないというわけではなく、太陽編が面白いという読者もたくさんいるので、私と相性の悪い物語なのではと思います。
11位 宇宙編…面白いけど共感はできない
さて、12巻中12位となった太陽編以外は、すべて物語としては面白く読みました。
11位となった宇宙編も、ミステリーのような導入部分、一人一人に分かれたカプセル内でマイクを通じての会話の緊迫感など、抜群に面白いです。
宇宙編は物語としては面白いのですが、火の鳥が牧村や猿田に与える罰にちょっと納得がいかないので、面白いんだけど共感できる物語ではない…かな、ということでこの順位です。
10位 望郷編…火の鳥がちょっと出しゃばりすぎ?
こちらも面白いのですが、ランキングが下になってしまう望郷編。
望郷編の物語自体は、火の鳥シリーズでしか描けないような壮大さがあり読み応えじゅうぶんです。
望郷編で主人公のロミが命懸けで星の歴史を紡いでいくストーリーや、他の星に移民した人々がどうしても地球に帰りたくなるといったエピソードは、背筋がゾクゾクするような凄みを感じます。
そんな望郷編という物語を、私にとって楽しめないポイントにしていることはただ一つ。
火の鳥がエデンの歴史に介入しすぎていることです。
私の性格が、地球とか宇宙とかの歴史が、人格を持った意志によって動かされるという世界観を楽しめないのだと思います。
9位 黎明編…生きるエネルギーに満ちた最初の巻
黎明編は火の鳥シリーズの最初の巻になります。
下からのランキングで4番目に登場してしまった黎明編ですが、ぶっちゃけここから出てくる物語は全部面白いです!
甲乙つけがたい物語をちょっとしたことでランクづけしていく感じですね。
黎明編は「生きよう」とする人間のエネルギーに満ちた、どこか胸がいっぱいになる作品です。
邪馬台国の女王ヒミコの描き方がちょっと悪役すぎるので、その分だけこの順位になってしまったかなというところです。
8位 生命編…バイオテクノロジーと生命の尊厳
生命編では、バイオテクノロジーや延命医療が発達した結果、現代の私たちから見ると、命に対する人間の考え方がどこか壊れてしまったような時代が描かれます。
「まさか人間の生命に対する価値観はこういう風には変わらないだろう」と思いますが、非人道的な大量殺戮が行われた第二次世界大戦は、現代からそれほど遠い時代の話ではありません。
生命編の世界は非現実的なようで実は現実的かも…という怖さと共に、「生命の尊厳とは何か?」を考えさせられる作品です。
生命編の惜しいところは、主人公青居の逃亡生活にリアリティがなく、細かい設定に少し粗さが見られることかな。
7位 羽衣編…この短さでこの面白さ!
羽衣編は、火の鳥シリーズの中では格段に短い物語です。
舞台で演じられているストーリーという設定のため、アングルはずっと正面から、背景の描き込みも少なく、一見「手抜き」の火の鳥に見えなくもないです。
ですが、15分程度で読み終わる物語なのに、時空のパラドクス問題、反戦のメッセージ、そして胸しめつけられるような悲劇…と、短い物語にエッセンスがギュッとつまっています。
こんな短くてシンプルな物語に、これほど読者を惹き込めるところに、手塚治虫のすごさを感じます。
6位 乱世編…武士は永遠の命にしがみつかない
乱世編は上・下巻に分かれていて、火の鳥シリーズでは比較的長い物語です。
源平争乱を描いていて、悲劇のヒーローと言われる源義経が、悪役とまでは言わないけどそこまで肯定的には描かれていないのが特徴です。
乱世編は義経がヒーロー的でないだけでなく、平清盛も、源義仲も、源頼朝も、善人でも悪人でもないとにかく「武士的人間」として描かれているためか、不思議な爽快感があります。
こういった武士たちの、火の鳥に象徴される「永遠の命」にしがみつかないドライさがいい味出しているんだろうな~。
乱世編は結構好きなんですが、肝心の主人公・弁太があんまり好きじゃないので、この位置です。
5位 ヤマト編…火の鳥で最もギャグテイストが強い
火の鳥シリーズランキング、5位くらいまでくると大好きな作品が続きます!
5位はヤマト編。
古墳時代を描いたギャグテイストの強い物語です。
ギャグ要素が多いのですが、物語自体は文書として残された歴史書のフィクション性や、古代の残酷な風習の改革など、描かれているテーマは非常に深いです。
悪役として描かれている王様が、どこか憎めないキャラなのが良いです。
まあとにかくクマソの川上兄妹がカッコよすぎるのが、ヤマト編の魅力ですね!
4位 復活編…最終章で噛み合う二つの物語
4位にランクしたのは復活編!
復活編は、過去と未来を交互に描き、最終章で時間軸がカチッと噛み合うという面白いスタイルで描かれています。
過去と未来から描き始め、現代編で終わろうと構想していた火の鳥シリーズ全体のスタイルと似ています。
復活編はこの独特の時間の描き方だけでなく、物語の完成度が高く、扱われているテーマの深みにも感じ入ります。
人体のサイボーグ化は未来に現実化していくでしょうが、サイボーグ化した人間は人間より機械にシンパシーを感じるかもしれない…って、一笑に付すことができない未来像だと感じます。
3位 鳳凰編…一般的には最も人気作品と言えるかも
3位は鳳凰編!
鳳凰編は火の鳥シリーズの中で特に人気の高い作品で、ファン投票で1位になるであろう有力候補です。
鳳凰編の何が良いか…我王と茜丸の人格が反比例して変わっていくのですが、その過程が自然に描かれていることと、悪→善の我王も善→悪の茜丸どちらとも、読んでいて憎む気にならないところですかね。
我王も茜丸も自分が生まれた時代に翻弄されながら、どちらとも本意な人生ではないだろうけど、とりあえず精一杯生きた…そんな感じは伝わってきて切ないです。
私が鳳凰編をなぜ1位でなくて3位にランクしているかというと、「残りの2つの物語がもっと好きだから」という理由だけです!
2位 異形編…男装の麗人が受ける無間ループの罰
2位は異形編です!大好きです!
異形編は「罪と罰」の物語で、「正義のための殺人は許されるか?」という人間の永遠のテーマを扱っています。
で、その答えが非常に深いんですよね。
「部下を平気で殺す残虐な父は死んだほうがよい」と考え、父の病を治そうとした術者を殺した左近介が、その罪で無限ループの世界に閉じ込められます。
この設定だけ見ると「許されない」という答えに見えますが、無限ループの中で傷ついた生命を延々と治し続けることで、もしかしたら罪が清算されるかもしれない…という可能性が示されています。
左近介はいつか許される日が来るのか…この問いにいまだに私は答えが出せません。
それから左近介が、めっちゃカッコイイ&美しい男装の麗人なのがやっぱりポイント高いですね!
火の鳥で一番好きなキャラです!
1位 未来編…スケールがデカい、デカすぎる!
私が火の鳥シリーズで最も好きなのは…未来編です!!!
末来編は火の鳥の時間軸で最後の時代を描いたお話で、人類が滅亡してしまいます。
この滅亡に至る過程が何だか凄くて…人工知能に政治判断を任せるようになった未来の話なのですが、それぞれの国の人工知能どうしの意見が対立し和解できないまま核戦争というアンサーを弾き出すという…。
そして2つの国の戦争だったはずなのに、なぜか同時刻にすべての国で核爆発が起きて人類が滅亡してしまうという、物語の中では種明かしがされない謎も含んでいます。
こういった人類滅亡に至る道筋には、いろいろ考えさせられるものがあります。
また、たった一人地上に残された人類マサトが、人工生命によって地球の生物を復活させようとするのですが、その試みがうまくいかず、気が遠くなるような時間をかけた生命の進化を待つしかないというのも、手塚治虫ならではの哲学だなあと感じます。
火の鳥の未来編ほどスケールの大きい漫画は読んだことがないです!
まとめ
最後にランキングをまとめておきます!
こうやって見ると、私はどちらかというと過去を描いた火の鳥のほうが好きなのかな~?
でも堂々の1位は未来編だもんな~。
火の鳥シリーズは物語によって雰囲気が違い、どれもこれも強烈な物語なので、人によって好みが分かれると思います。
火の鳥シリーズを完読したら、ぜひ脳内ランキングを作って楽しんでみてください!