第1回の本屋大賞を受賞した「博士の愛した数式」を、ようやく読みました。
数学がテーマの小説で、よく高校生の課題図書にもなります。
読んでみた感想や、高校生が読んで感想文を書きやすい本なのか…などをまとめてみました。
博士の愛した数式ってどんな本?
「博士の愛した数式」は、日本を代表する作家・小川洋子さんの代表作です。
第1回本屋大賞を受賞した作品としても知られています。
また、数学をテーマにした感動作とあって、学生の長期休み中の課題図書とされる定番でもあります。
ストーリーはシングルマザーの主人公が、数学者の老紳士「博士」のもとへ家政婦として派遣され、数学を通じて、主人公の息子も交えて変わり者の「博士」と交流していく…というものです。
感想文の本として選ぶのは慎重に考えた方がいいかも
さてネタバレありの感想に入る前に、この本が「学生さんが感想文を書くための本として選ぶのに適しているか?」について書いてみます。
まず中学生向けとしては内容が難しいです。
よっぽど読書好きか数学好きの子でないと厳しいと思います。
次に高校生向けとしてですが…どうかなあ…。
物語がテンポよく進むわけでも、物語展開がワクワクするわけでもないので、普段本を読まないタイプの高校生が楽しく読める本ではないと感じます。
特にこの本が楽しく読める男子高校生は少ないんじゃないかなあ…。阪神タイガースは出てくるけど、昔の阪神だし。
また、私が「博士の愛した数式」を読もうと思ったのは、
数学嫌いだった私が、少しは好きになれるようなお話かな?
…という期待からだったのですが、ゴメンナサイ、最後まで読んでも全然数学を親しく感じるようにはなりませんでした!
私の知人にも
「博士の愛した数式」はあまり面白いと思わなかったなあ。
と言っていた人がいるので、誰もが読んで面白いという本ではないかな、と思います。
そんなわけで、数学好きだったり、日本の女性作家のミステリー系でない本が好きという人なら、感想文の本として選ぶのもありですが、そうでなければあまり感想文を書く本としてはおすすめしません。
読書感想文の本としては、「夏の庭」の方がおすすめです。
記憶を持たない者との愛について
「博士の愛した数式」に出てくる博士は、数学マニアというだけでなく、もうひとつ変わった特徴を持っています。
博士は交通事故がきっかけで、80分の記憶しか保持できないのです。
「博士の愛した数式」は数学というテーマがよく知られる作品ですが、私はこの「80分の記憶」にまつわるエピソードの方が心に残りました。
80分しか記憶が持たない博士は、事故が起きる前の出来事と、それから今から80分前までの出来事しか記憶がありません。
そのため、事故の後に出会った主人公である家政婦や、家政婦の息子「ルート」のことは、80分おきに忘れてしまうのです。
それでも主人公とルートは、博士と友人関係を築き上げることに成功します。
80分おきに忘れ去られるのに?
しかし、このことは本を読んでいて不自然に感じませんでした。
当然のことながら主人公とルートは博士のことをずっと覚えていて、博士が自分たちのことを忘れることもお構いなく博士に友愛の情を向けます。
博士の記憶は80分ごとにリセットされますが、主人公とルートの博士へ向ける親しみの気持ちは、時を重ねるごとに深まっていきます。
相手が自分のことを忘れ続けても愛し続ける…これは無償の愛ですね。
余談ですが世界に存在する「無償の愛」のほとんどは友情だと思っている私であります。
博士の側は80分ごとにゼロになってしまっても、主人公とルートの方の友愛数値のようなものはずっと高まり続ける。
そうすれば結局、博士と、主人公と、ルートの友情の気持ちの総数は時が経つほどに大きくなっていくわけですよね。
この友情関係については、数学的(いや算数かな)に納得できるのが面白いなあと感じました。
まとめ
「博士の愛した数式」を読んだ感想でした。
読み終わっても数学に対する親しみは全然湧いてこなかったし、あまり私には向いていない本だったかなと思います。
小川洋子さんの本は、ほかの本を読んだときもあまり心に残らなかったので、私とは相性がよくないのかもしれません。
ただ、面白いとは感じなかったものの、扱うテーマは興味深く、やはり日本の現代小説の代表作のひとつではあると思います。
節々には「おっ!」と思えるような美しい文章表現もあります。
正解を得た時に感じるのは、喜びや解放ではなく、静けさなのだった。あるべきものがあるべき場所に納まり、一切手を加えたり、削ったりする余地なく、昔からずっと変わらずそうであったかのような、そしてこれからも永遠にそうであり続ける確信に満ちた状態。博士はそれを愛していた。
数学と「静けさ」に関するこういった文章なんか、
あ…。確かに本屋大賞なだけはある!
と思いました。
私個人の好みとしては、全体的に積極的な感想は持てませんでしたが、迷うようであればぜひ読んでみる価値のある作品だと思います。