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山本直樹「レッド」を読んだ感想。リアルな世界の厳しさと何度読んでも泣ける場面

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桐野夏生が書いた、連合赤軍事件をモチーフにした「夜の谷を行く」を読みました。

非常に読みごたえがある本でしたが、連合赤軍事件は私が生まれる前の事件であるため、何となく深く読み込めない部分もありました。

事件についてネットで調べてみましたが、あまりに複雑で文章だとわかりづらい…。

そこで、かなり事実に近い形で書かれたコミック「レッド」があると知ったので、読んでみました。

「レッド」の構成

レッドは全13巻ですが、1巻~13巻という形ではなく、以下のような構成になっています。

  • レッド 1969~1972 全8巻
  • レッド 最後の60日そしてあさま山荘へ 全4巻
  • レッド最終章 あさま山荘の10日間 全1巻

時系列としても刊行順としてもこの順番なので、順に読んでいく形になります。

概ね最初の7巻が山岳で連合赤軍が結成されるまでの物語、8巻目と「最後の60日」全4巻が山岳ベースでの事件、最終章があさま山荘事件という形です。

「レッド」は創作が少なく表現がオーバーでないのが特徴

実はこのコミックを読むかどうかは、かなり迷いました。

私は「HUNTER×HUNTER」を読んでいるくらいなので、暴力的なシーンが出てくる漫画が大の苦手というほどはありません。

しかし、「レッド」は実際に起きた事件がモチーフなので、「読むと精神的に暗い気持ちになってしまうのでは?」と不安になったのです。

思い切って読んでみてやはり暗い気持ちにはなりました…が、最後まで読み切ることができました。

「レッド」は登場人物の名前は変えてありますが、当事者の残した記録に基づいて書かれてあり、創作部分が非常に少ないのだそうです。

それに加え表現がオーバーではなく、人物の造形も必要以上に美男美女に描かれていません。

表現がオーバーな漫画を読み慣れている読者にとって、「レッド」の淡々としたリアルさは、激しいシーンでも物語に集中して読むことができる要因になっているかな、と感じました。

「リアルと物語は違う」という厳しさ

ここからは少しですが内容のネタバレを含みます。「レッド」未読の方は注意してください。

レッドの「創作が少なく表現がリアル」という面が強く出るなあ…と感じるのは、やはりメンバーが死んでいく場面においてです。

たとえばこれが完全な作り物語のコミックであれば、仲間が死ぬ前に印象的な言葉のやりとりがあるとか、恋人の死でこらえきれず涙するとか…読者はそんなシーンを期待します。

しかし、「レッド」で繰り広げられる現実の世界はもっと淡々と過ぎていきます

連合赤軍事件が衝撃的なのは、メンバーが互いに人間関係が希薄だったとか、憎みあっていたわけではなく、志を同じくして長く付き合ってきた「仲間」「恋人」「家族」…が加害者と被害者に分かれてしまうことです。

「レッド」は山岳ベースの事件が起きるまでの物語に、全13巻の半分以上の7巻を費やしているため、山岳に集まったメンバーの人間関係がよくわかる内容になっています。

それゆえメンバーが死ぬ場面で、それまで親しくしてきた登場人物に対し「何で止めないの!?」という気が沸いてくるのですが…あの状況で自分なら何かできたかというと…

ぽこ
ぽこ

…何とも言えないですね…。

フィクションとしての読み物は、人間関係の絆が前面に出た物語が好まれますが、現実はそんなに感動的な世界ではないということを思い知らされます。

人間は「もろい絆」の世界に生きているからこそ、「強い絆」の作り物語にあこがれるのでしょうか。

「レッド」で泣けてしまった場面

現実は作り物語と違い読者の期待に応えるような甘いものではないことを思い知らされる「レッド」。

ですが全巻読んだ中で、涙してしまった場面が一つだけあります。

ぽこ
ぽこ

私、本や漫画を読んで泣くことはめったにないんですけどね。

それは「最後の60日」の4巻目で、平が苗場夫妻の赤ちゃんを連れて湖のほとりで泣くシーンです。

彼女は山岳アジト間の連絡をするためにふもとの町に降りますが、泣きやまない赤ちゃんに「お願い、泣かないで…」と言いながら、自分が顔をくしゃくしゃにして子供のように大粒の涙を流しています。

赤ちゃんの父親は既に「総括」で死んでしまい、母親は山岳アジトを脱走しています。

そしてこの場面では、既に山岳に集まったメンバー11人が理不尽な死を遂げています。

赤ちゃんの運命といい、死んでいった仲間の運命といい…彼女はここでもう何もかも耐えきれなくなって、無力な子どものように手放しで泣いてしまったのでしょう。

こんな悲惨な出来事に対し、人は泣く心を持っているのだということ

浪人時代に予備校で受けた世界史のサテライト授業で、戦後、ナチスの収容所の惨状に英米などの兵士がショックを受けている写真を出して、先生がこう言ったことを思い出します。

「歴史はヒューマニズムでは語れません。でも、このような残酷なものに対し人間は心を痛めるということに救いを感じます」。

現実を冷淡に描き出す「レッド」で、唯一救いがあるのがこの場面だな、と感じます。この場面は何度見ても泣けます。

平のモデルとなった人物が山岳から離脱した経緯は、「脱走」なのか「自殺志願者と間違われての保護」なのかよくわからず、この大泣きしている場面が実際にあったのか、それとも作中での数少ない創作部分なのかは不明です。

まとめ

山本直樹の「レッド」を読破した感想でした。

桐野夏生の「夜の谷を行く」はフィクションなので救いを見つけやすいですが、事実に忠実に沿って書かれた「レッド」は読むのは辛かったです。

それでも、やっぱり読んでよかったと思いました。

個人のささいな問題点を大勢で暴力的に追及していく姿なんて、現在のネット私刑そっくりです。

「過去の異常な人たち」の物語ではなく、現在の普通の私たちが抱えている問題でもあるのだと感じました。

ただ「夜の谷を行く」と同じように注意しなくてはならないのは、「事実に沿って書かれた」とはいえ、この作品もフィクションの側面もあるということ。

視点は「オレ」というモノローグが入る岩木、吾妻、谷川、荒島など限られた人物からのもので、女性メンバーの視点は一切ありません。

ぽこ
ぽこ

「夜の谷を行く」関連の記事で女性メンバーは事件に沈黙している場合が多いとありましたが、本当にそうなんだろうな。

また、死んでいったメンバーが何を考えていたかということは、当然知る由もありません。

「レッド」を読むとつい反感を覚える登場人物もいますが、それはモデルとなった人物そのものの姿ではなく、誰かの目を通して見た一側面だと考えるべきでしょう。

「レッド」は「連合赤軍事件とは何だったのか」を考える手掛かりとしては素晴らしい出来の作品ですが、フィクションの側面があることだけは忘れないようにしないといけないな、と思いました。

ぽこ
ぽこ

作品のクオリティが高いからこそ注意しておきたいです!

フィクションですが、連合赤軍事件を女性メンバーの視点から書いた「夜の谷を行く」を読んだ感想はこちらです。

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