2021年のロングヒットとなっている本のひとつが「生物はなぜ死ぬのか」。
私は文系ですが、理科は昔から好きで(数学はダメだけど)、今でも専門的すぎない理科系の本を読むのは楽しいです。
こんなに売れているってことはそこまでは難しくないんじゃないかな?
…と思い、読んでみました!さっそく感想を書きます!
「生物はなぜ死ぬのか」はどんな本?
「生物はなぜ死ぬのか」は、2021年4月に講談社から発行された本です。
講談社現代新書というシリーズから出ています。
「生物はなぜ死ぬのか」は、発売以来ロングでよく売れていて、書店では新書本のランキングコーナーに並んでいました。
著者は生物学者の小林武彦さん。
内容は、タイトルの通り「生物はなぜ死ぬのか」を、生物学的な観点から考える本です。
マクロな「進化」という観点と、ミクロな「DNA」という視点の両方から、そもそも生物はなぜ死ななければならないのかについて考察しています。
「生物はなぜ死ぬのか」の内容は難しい?
「進化」「DNA」と言われると
難しそう…
…と感じるかもしれませんが、「生物はなぜ死ぬのか」は、生物学の話をなるべく簡単にわかりやすく書いています。
著者さんの文章力があるのかもしれませんが、理系の本としては、格段にわかりやすかったです。
もちろんいくつかは、理解しきれないところもありました。
ラギング鎖合成のあたりは何度読んでもよくわからなかった…。でも理解したいから、DNAの入門書でも今度読んでみよう!
ですが、こういった細かい部分が理解できなくても、本書全体の流れにはついていけました。
理系の本にしてはかなりわかりやすくて読みやすいのが、よく売れている理由なのかもしれないです。
老化は人に特徴的な死に方!?
かなり面白く読んだ本書なのですが、興味深かったことのひとつが「老化」についての記述。
著者さんによると
老化が死を引き起こすというのは、生き物の中でも特にヒトに特徴的
ということです。
本書によると生物の死は大きく2つに分けられて、アクシデントによる死と、寿命による死です。
アクシデントというのは、捕食されたり踏まれたりという死に方で、体の小さい生き物に多い死に方です。
それに対し、大きな動物は寿命によって死ぬことが多くなりますが、面白いのは寿命死=老化死ではないということです。
野生の動物は寿命で死ぬ場合でも、人間のように長い老後を過ごすことがないそうです。
若者とシニアには、それほど体力的な差はなく、死ぬ直前まで元気で、いわゆる「ピンピンコロリ」の死に方が多いのだとか。
大型の野生動物は食べられなくなったら死ぬので、餌が取れなくなったら、あまり長い時間をかけずに餓死するってことなのかな?そこまでは本書に書いてありませんが。
「ピンピンコロリ」の死に方を望む人は多いでしょうが、人間を幸せにするはずの社会や科学が発達しすぎて、「ピンピンコロリ」の死に方ができなくなったのであれば、何だか皮肉な感じがしますね。
本書の最後に少し「バイオミメティクス」という、他の生物を模倣する技術が紹介されていますが、「長い期間苦しまずにコロッと死ぬ」ことを望むなら、野生動物の生き方にヒントがあるのかもしれません。
多様性のための「死」
著者さんの「生物はなぜ死ぬのか」に対する回答は、ズバリ「進化するため」です。
地球全体で見れば、全ての生き物は、ターンオーバーし、生と死が繰り返されて進化し続けています。生まれてきた以上、私たちは次の世代のために死ななければならないのです。
どういうこと?別に前の世代が死ななくても次の世代が進化することは可能なんじゃないの?
…と、とっさに思っちゃいますが、結果論として見ると、進化によって獲得されるのは多様性です。
もちろん、多様性を獲得するために進化が起こったわけではなく、環境に対して有利な性質をもった個体が偶然に新しく生まれ、そして生き残るということを繰り返した結果、生物の多様性がもたらされます。
地球上の生物が全体として生き残っていくためには、たとえば寒さに強いタイプ、暑さに強いタイプなど、いろいろなタイプがいた方が、全滅を避けられるというのは理解できる話です。
この多様性が進化によってもたらされとすると、偶然にゆだねるという形になります。
途方もない数の「試作品」が生まれ、偶然にその時の環境に強いタイプが生まれて生き残ると、進化が達成され、多様性が生まれると。
この「試作品」をたくさん作るためには、材料の確保が必要になりますが、
材料の確保については手っ取り早いのは、古いタイプを壊してその材料を再利用することです。
…生物に死があった方が多様性が生まれやすい…ということで、生物は「死ぬ」という性質を進化によって獲得したということですね。
ちなみに本書でも触れられていますが、多様性を生み出すための装置として、有性生殖はかなり優秀なシステムです。
生物の死と有性生殖は関わりがあるという話は時々目にしますが、この本を読んでも、やはり多様性獲得のための有性生殖は、個体の死とどこかつながっている気がしました。
マンガの話ですが、このブログでも「永遠の生という孤独」について書いた記事で、ちらっと触れています。
「子供のほうが優秀」という言い方は少し危険な気が…
全体的に興味深く読んだ本書ですが、ひとつだけひっかかったのは…この部分。
当然ですが、子供のほうが親よりも多様性に満ちており、生物界においてはより価値がある、つまり生き残る可能性が高い「優秀な」存在なのです。
生物界において、DNAレベルでも、もっと人間の価値観のようなレベルにおいても、多様性が重要なのはわかります。
ただ、子供の方が親よりも多様性があるって言えるんですかね?
生物学的には、たった一世代でも違えば多様性が確保されるんでしょうか?私の浅い生物学の知識ではピンとこないです。
また「子供の方が多様性の面で優秀」という言い方は、ちょっと優生学に似た恐さを感じます。
もちろん本書の内容は優生学的な感じは一切ありません。
むしろこの後の記述には、年長者は大切な子供世代をしっかり育てるために、長生きしなければならない…という考え方が続きます。
ですが科学者によるこのような言い方は、部分だけ切り取られて、思想として悪用されることもあるんじゃないか…という不安を、少し感じました。
まとめ
ベストセラーとなっている新書「生物はなぜ死ぬのか」を読んだ感想でした。
生物学者としての観点からの死生観について読むことは、自分の生や死に対する見方を広げてくれます。
理系の本としては読みやすく、文系でも「理科は少し好き」「高校生物を習った」という人なら、つまずかずに読めるのではないかと思います。
内容は生物学だけでなく、生物学者としての視点からこれからの人間社会についても考察しています。
理系でなくても興味深く読める内容ですので、「難しいのでは?」と躊躇せずにぜひチャンレジすることをおすすめします!