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「兵士たちの連合赤軍」を読んだ感想。メンバーはなぜリーダーについていったのか。

本の感想
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桐野夏生の小説「夜の谷を行く」を読み、自分が生まれる前に起きた連合赤軍事件について詳しく知りたいと考えました。

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そこで次に読んでみたのが、事件の事実に沿って描かれたというコミック「レッド」。

「レッド」を読むと、「両親から聞いたことがある連合赤軍事件の話と全然違う…」と思い、次は当事者である女性リーダーが書いた手記「十六の墓標」を読んでみました。

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「十六の墓標」は、革命左派出身の女性リーダーの視点で書かれています。

「違う立場のメンバーが書いた手記も読まないと判断できない部分があるだろうな…」と思い、次に手に取ったのが、赤軍派出身の元連合赤軍兵士が書いた「兵士たちの連合赤軍」です。

「兵士たちの連合赤軍」はどんな本?

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「兵士たちの連合赤軍」の著者は連合赤軍メンバーだった植垣康博さん。

連合赤軍事件では何人かのメンバーがそれぞれ記録を残していて、そういった「当事者の手記」の一つです。

植垣さんは赤軍派から連合赤軍に合流したメンバーで、指導部ではなく被指導部の兵士です。

そのため総括要求を主導した側ではなく、親しい仲間や恋愛関係にある女性を総括要求によって失い、本人も暴力までは受けていませんが総括を要求されています。

とはいってもその能力の高さから、被指導部だけで行う作業では自然とまとめ役になっていたようで、「末端」の兵士ではない感じです。

植垣さんは20年服役した後に出所していますが、連合赤軍についての本を出したり取材に応じたりと、事件について最も語るメンバーの一人です。

連合赤軍事件をなるべく事実に沿って描いた漫画「レッド」では、岩木という名前で登場し、物語の主役の一人として描かれます。

「レッド」の岩木は明るく元気、多芸で有能な人物として描かれますが、手記を読む限り、モデルとなった植垣さんにもほぼ同じ印象を受けました。

「兵士たちの連合赤軍」は読みやすい?

「兵士たちの連合赤軍」は、連合赤軍の当事者が書いた手記としては「読みやすい本」とよく言われます。

私はその先入観を持って読んだためか、想像していたほどは読みやすくなかったです。

ただしそれは著者の文章が難解という意味ではなく、登場人物が非常に多くてしかも入れ替わりが激しいのと、アジトを次々に移動していく部分などで混乱しました。

また「十六の墓標」と違って、連合赤軍メンバーも実名と仮名が混在していて、実名と「レッド」で使われる名前の2つを既に知っている私にとっては、さらに名前が増えて誰のことだかわからなくなることがありました。

このへんはこの本は当事者の手記であり、娯楽性の高い読み物ではなく資料として書かれている以上、仕方がない部分かもしれません。

ぽこ
ぽこ

私は先に「レッド」を読んだせいで、「レッドに出てくる誰だっけ?」「レッドのどの場面だっけ?」といちいち考えたため、逆に混乱してしまったということもありました。

「レッド」と合わせて読むとさらに理解が深まる

たった今、「『レッド』を読んだせいで逆に混乱した部分があった」と書きましたが、それでも「兵士たちの連合赤軍」は「レッド」と併せて読むことをおすすめします

「レッド」の岩木に関するストーリーは、「兵士たちの連合赤軍」の重要場面をうまくまとめていますが、「兵士たちの連合赤軍」には「レッド」に描かれないエピソードがたくさん出てきます。

「レッド」で岩木と九重の関係が悪化する場面などは、「兵士たちの連合赤軍」を読むと岩木(=植垣さん)の意図が書かれていて、「なるほど、そういうことだったのか…」と腑に落ちました。

また「レッド」は実際に起こった事実だけを描き、登場人物の心の中をほとんど描きません。

そのため仲間が総括で死んでいく場面のアッサリ感…周囲のメンバーの淡々とした態度に、何だか読者の方が裏切られた気分になるところがあります。

ですが「兵士たちの連合赤軍」には、当事者たちはもちろん何も感じていなかったわけではなく、親しい仲間が総括にかけられる場面で揺れ動く心情が書かれていて、何となくホッとしました。

他のメンバーがこのような手記を書けば、また違う場面で揺れる気持ちが書かれるのでしょう。

犠牲者たちがそれだけで浮かばれるということはないのでしょうが、外から事件を見ている第三者としては、少し救われるような気持ちになりました。

なぜ兵士たちはリーダーについていったのか?

私が「兵士たちの連合赤軍」を読むことで一番知りたかったのは、「なぜ兵士たちはリーダーについていったのか?」ということでした。

「レッド」でも「十六の墓標」でも、総括要求を主導していくのは元赤軍派の男性リーダーです。

指導部はもともと7人いますが(うち2人は総括要求を受けて死亡)、厳しく総括を要求していくターゲットを決めたり、死に至らせるような暴力・虐待を正当化する理論を作るのは、ほぼこの男性リーダーの独壇場です。

最初に総括要求を受ける男女二人と、運転の失敗が総括要求につながる夫婦で参加した男性は、この男性リーダー以外の指導部が総括要求のきっかけを作っていますが、それ以外の9人は男性リーダーが追及を始めます。

このリーダーによほどのカリスマ性や信頼がないと、仲間が死んでしまうような活動に盲目的について行かないと思うのですが…「レッド」を読んでも「十六の墓標」を読んでも、そこまでのリーダーには見えない…。

「レッド」でも赤軍派時代に岩木をはじめとしたメンバーはリーダーに不満があったことが描かれますし、「兵士たちの連合赤軍」でも著者はこのリーダーの指導に対して実際に疑問を感じていたことがわかります。

しかし「兵士たちの連合赤軍」では、リーダーが逮捕されたことを知った時の記述は、

尊敬していたので…ガッカリしてしまい、泣いている者もいた

信頼は絶対的ともいえるものだった

…なんですよね。

これはいったい何なのだろう…。

どれほど考えても「これだ!」という答えは出てこないのですが、一つだけポイントとして考えられるのは、このリーダーが非常に「口が達者」だったということです。

能弁に惹きつけられる危うさと対抗策

本の中で、赤軍派が南アルプスの山岳アジトにいる時に、赤軍派のメンバーが一人ずつ赤軍派の歩みを即興で総括するという場面があります。(「レッド」だと7巻の真ん中あたり)

メンバーの多くは絶句してしまったり、途中で詰まったりしてしまいますが、リーダーだけはすさまじく長い総括をスラスラとよどみなく語り、聞いているメンバーたちを圧倒します。

著者いわくメンバーたちは感嘆し、リーダーへの「信頼は絶対的なものになった」と書かれています。

このリーダーにはとにかく卓越した能弁さ、雄弁さがあったようです。

能弁さというと…思い出すのはオウム真理教事件です。

オウム真理教事件がメディアをにぎわせている頃、スポークスマンのような教団関係者がよくテレビに出ていました。

この人物はとにかく口がよく回り、あとからじっくり聞くとオカシイことを言っているのですが、その場ではツッコめないような早口でペラペラとしゃべりまくっていました。

私はこの頃高校生だったのですが、信じられないことにクラスメイトには、彼のファンだという人がちらほらいたのです…。

能弁・雄弁という能力には人を惹きつける魅力があるのですね。

だからこそ特に欧米の政治家は弁舌力を磨きますし、ヒトラーの例を引くまでもなく、演説のうまい政治家が熱狂を引き起こすことは歴史で繰り返されています。

このリーダーの暴走を許した理由のひとつは、リーダーの能弁さに周囲が引きこまれていき、その状況にリーダーさえも飲み込まれていったことなのかなあ…と感じます。

山岳での会議に書記がいた様子はないので、書記を置いてしっかり議事録を書いておけば、後からゆっくり読み直して矛盾を指摘することができたのかもしれない。

リーダーはメンバーの中で最も口が達者だったかもしれませんが、文章にしたものを検討する能力は、リーダーより優れている人がいた可能性がありますよね。

このことから得られる教訓は2つあると思います。

人間はスラスラと語られる言葉を正しいと感じ、能弁な人物に惹きつけられる傾向があるということをまずは心に留めておくこと。

それゆえ大切なことを話しあうときには、必ず文章としての記録や録音として残し、後からじっくり検討すること。

連合赤軍の時代にもしスマホがあったら、簡単に録音を残せるので、あそこまでおかしな論理はまかり通らなかったのかもしれませんね…。

まとめ

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「兵士たちの連合赤軍」を読んだ感想でした。

連合赤軍の元メンバーの手記を読むのは「十六の墓標」に続き2冊目ですが、やはり書き手が変わると、受ける印象が変わってきます。

「十六の墓標」を読んだ時には好感度が高かった人物が「兵士たちの連合赤軍」ではやや否定的に描かれていたり、同じ場面でも書き手が違うと微妙に食い違いがあったりします。

これはどちらが正しいということではなく、人間の記録とはそういうものなのでしょう。

どうしても書き手の主観が入りますし、カントが言うように「世界そのもの」を人間が主観なしに認識するのは不可能なのでしょうね。

その意味で複数の連合赤軍メンバーが、それぞれ自分の視点から記録を残しているのは、事件のことを少しでも正しく捉える助けになっています。

連合赤軍についての本を読むのは結構大変なので、また休んでから、他のメンバーの視点から書いた本も手に取ってみようと考えています。

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