PR

「勝ちすぎた監督・駒大苫小牧幻の三連覇」感想。これだけは言いたい!

勝ち過ぎた監督 本の感想
記事内に広告が含まれています。

高校野球には、「盟主」と呼ばれるチームが存在する時代があります。

人によって捉え方の違いはありますが、2002年の夏準優勝くらいまでは智弁和歌山、2008年の夏優勝あたりから大阪桐蔭の時代が始まり、現在に至ります。

その空白期にあたる2004年~2007年に甲子園で「盟主」の座をつかみかけた高校が3校あります。

  • 2004年に初出場で春優勝夏準優勝を成し遂げた済美。「やればできるは魔法の合い言葉」という斬新な校歌が、新時代の雰囲気を漂わせていました。
  • 2007年の春優勝を皮切りに夏はベスト4、翌年の夏は準優勝という好成績を残した常葉菊川。バントしない超攻撃型野球かつ守備も超攻撃型という、これまた高校野球の歴史を変えそうな強烈なチームでした。
  • 3校の中でも最も強烈だった、北海道勢初の2004年夏制覇から、あわや夏3連覇を達成するかと思われた駒大苫小牧

この3校は現在でも甲子園に出てくる年はありますが、3校とも監督は交代していて、全盛期のチームとは、流れが切れているように感じます。

この3校が、高校野球界の盟主になり切れなかった理由はさまざまなのでしょうが、実はそれらの理由の一つに、共通するものがあります。

3校ともちょうど「飛ぶ鳥を落とす勢い」だった時に、不祥事・スキャンダルが報道され、その勢いに水が差されたのです。

もちろんそれぞれのチームに問題はあったのでしょうが、3校が3校、最も乗りに乗っているタイミングで、不祥事・スキャンダルが報道されるというのは、「チームの問題」だけの話なのか…。

私はこの時期の高校野球の「流れ」を、

あれはいったい何だったんだろう…。

と、時々考えることがありました。

そして見つけたのが、この本。

「幻の三連覇」って…。いかにもタイトルが「駒大苫小牧の三連覇は何かの力によって阻まれた」という感じがしますよね。

もしかしたら私が長年抱いていた疑問が、少し解決するかもしれないと思い、手に取って読んでみました。

まずはネタバレなしの感想を

「勝ち過ぎた監督」は2017年に発行され、講談社ノンフィクション賞を受賞しています。

2018年に文庫化されると、「本の雑誌が選ぶ文庫ベストテン」の1位を獲得して話題になりました。

こういったことからも、非常に評価の高い本であることがわかります。

読んでみると、本自体は掛け値なしに内容が深く、ソワソワしながら次を読み進めてしまいました。

高校野球オタクの私にとってストーリーの結末はわかっているんですが、それでも続きが気になるくらいでした。

作者さんは、駒大苫小牧の香田元監督と知り合いのため、香田さんをどうしてもかばいたくなるとは思うのですが、そこらへん、なるべく読者に中立に伝えようと、マイナス面も書いています。

香田さんにも本当のことだから書いていいと言われたそうで、その辺は香田元監督のスケールが大きい部分だなあと感じました。

そういった点で、ノンフィクションとしての質は高く、読みごたえがあります。

私の感想は作者さんの考えとは正反対

ここからは本のネタバレを含みますので注意してください!

そんなわけで、この本の「質」自体は、素晴らしいと思います。

しかし、高校野球ファンとして、作者さんには共感できない部分がいくつかありました。

私がこの本を手に取ったのは、ぶっちゃけ「駒大苫小牧は強すぎて外部の圧力によって潰された側面があるのでは…?」という気持ちがあったからでした。

作者さんの結論は、駒大苫小牧に問題があったことも認めつつも、どちらかというとそんな感じのニュアンスです。

本書から引用します。

有名になり過ぎたばかりに、高校球界でありがちな不祥事は一大スキャンダルにまで発展した。

うーん…高校野球ファンとして、それはないでしょという感じです。

駒大苫小牧は、2005年夏に部長の暴力、2006年春に部員の飲酒、2006年秋に部員の喫煙といった不祥事が立て続けに発覚しています。

どの不祥事も、確かに「高校球界でありがちな不祥事」ではあります。

ただし不祥事が起きたチームは自己反省して、再発しないように取り組むもので、これほどまでに短いスパンで立て続けに事件を起こすことは、そうありません

上の方で名前を挙げた大阪桐蔭、智弁和歌山も不祥事がニュースになったことがあります。でも、繰り返してはいないです。

不祥事を起こしたことがあるほとんどのチームは、こういう感じですよね。

智弁和歌山の高嶋元監督は、あれほどの名将でありながら、不祥事が起きた後、お遍路参りして自分を見つめ直したという話がよく知られています。

ですが、少なくともこの本の中では、香田元監督が起きた不祥事を真摯に受け止め、部の体質を改善しようという姿勢は見られません。

また本書を読む限り、どの事件も、外部から仕組まれて起きたという感じはなかったです。

卒業した未成年の大学生選手にビールをすすめるシーンなんか(選手は断っている)、「やっぱり部の体質だよなあ…」と感じてしまいます。大学チームに迷惑かかったらどうするんだろ…。

それに何より、引用したこの一文は、不祥事とはほぼ無関係に、野球に取り組んでいるチームに失礼です。

2年間で3度の不祥事なんて、駒大苫小牧以外記憶にありません。

高校野球を知らない人が読むと「高校野球の強豪校はどこでも暴力・飲酒・喫煙は日常なんだろう」なんて思っちゃいますよね。

私が長年考えていた疑問に対する回答は「駒大苫小牧に関しては、チームが不祥事によって転落したのは、チームの問題というのが大きかったんだな…」というのが、この本を読んだ後の感想です。

スポーツは「ルールを守る」のが大前提

私は自分のことを、それほど不祥事に厳しいタイプではないと考えています。

高校生がお酒やタバコを嗜むことなど、違法ではありますが、少々であれば誰にでも経験あるでしょう。

暴力も同じように考えています。

もちろん暴力はダメです。でも人間ですから、本当に頭に来た時に反射的に手が出ることはあります。

問題なのは、そういったルール違反が日常的になる場合だと思います。

この本を読む限り、駒大苫小牧の野球指導において暴力は稀なことではなかったようですし、見つかったタバコの吸い殻も1本や2本でなく大量です。

「アメとムチ」という言葉があるように、おそらく暴力と快楽(酒・煙草)は、集団を強くするための近道なのでしょう。

身体が資本のプロ野球選手に、健康に百害あって一利なしの煙草を吸う人が少なくないのは、煙草が「アメとムチ」の「アメ」として働くからではないかと私は考えています。

しかし高校野球界において、どんなに近道でも暴力・酒・煙草はルール違反。

たまには反則があるのは仕方がないと思いますが、ルール違反を部の体質として容認・黙認して強くなるのは認められないでしょう。

野球はスポーツ。ルールの範囲内で行うものですからね。

まとめ

というわけで、作者さんも知己である人間に対し、厳しいことは書きづらかった面もあるとは思うのですが、高校野球ファンとして、どうしても「ちょっと待って!」と思う部分があったので語らせていただきました。

とはいえこの本は、イチ高校野球ファンの私に「高校野球における不祥事はなぜダメなのか」を考えるきっかけをくれました。

未熟者の私の結論としては、現段階では上のような感じですが、こういったことを考える機会をくれた作者の中村計さんと、ご自身にとってマイナスなことも書いてあるこの本を、刊行することを承諾してくれた香田元監督に感謝したいです。

タイトルとURLをコピーしました