2018年は高校野球の100回大会ということで、例年以上に「高校野球のあり方」を問う議論が活発でした。
その中で、出てきたのが「高校野球のリーグ戦導入」論。
私は、これだけは全面的に反対ですね。
あ、これだけじゃなくて、申告敬遠も全面的に反対だなあ。申告敬遠が認められるなら、投手がバッターの時に申告三振もアリってことになりません?
…話がそれました。「申告三振」ではなく、「リーグ戦導入」について語ります!
トーナメント戦こそが高校野球のアイデンティティ
私が高校野球にリーグ戦を導入することに反対なのは、一発勝負のトーナメント戦こそが、高校野球の醍醐味だと思っているからです。
高校野球がリーグ戦になるのであれば、もはや高校野球はただの「野球」で、大学野球やプロ野球と同じです。野球をしているのが高校生というだけです。
私は、高校野球はもちろんスポーツでありながら、「文化」の側面があると思っています。
高校野球の「文化」は一言で表せるものではないと思いますが、トーナメント戦もその文化を形作っている重要な要素です。
賞味期限1年のチームが、一発勝負で勝ち負けが決まる。だからこそ選手も必死で勝ちに行くし、応援する方も祈りたくなる。
ちょっと格好つけて言えば、高校野球には「刹那」の文化があります。日本人が昔から「趣深い」と感じる、無常観のようなものですね。これは、リーグ戦の大学野球やプロ野球には、醸し出すことができないものです。
リーグ戦の導入はいったい何を解決するためのもの?
先ほど、高校野球には「文化」の側面があると書きましたが、高校野球では独自の「文化」が高校野球の持つ「スポーツ」という側面に悪い影響を与えることがあるのは、周知のとおりです。
そのために、変えられる部分は変えていくべきだというのは同感です。
選手の疲労を軽減するためのタイブレーク制度、休息日を挟むなどの日程の見直し、複数投手制促進のための投球制限、木製バットの導入の是非…。
これらの対策は、議論してベストな方法を模索していくべきだと思います。
しかし、リーグ戦の導入は高校野球の何を解決するんですかね…?
リーグ戦の導入は投手の酷使を軽減しないのでは?
まず、リーグ戦は「特定の投手を酷使しないため」に導入すべきと考える人がいます。
リーグ戦を導入すれば、「負けてもよい試合」が出てくるため、エースを登板させなくてよい試合がありエース以外の投手が育つのではないか?という考えです。
しかし、「負けてもよい公式戦」が出てくるということは、結果的に公式戦の数を増やすことになりませんか?
そうすると「負けても終わり」ではないかもしれないけど、「できれば勝ちたい試合」が増えることで、結果的にエースの投球数は増えるのでは?
リーグ戦の大学野球ではエースの登板機会が多く、「高校野球以上に投手が酷使されている」と指摘されることもあります。
私の知人投手も大学リーグ戦での投げすぎで肩を壊しました…
首都大学野球はその問題を解消するために、投球制限を2018年から導入しました。
逆に言うと、投球制限を導入しなければならないほどリーグ戦でも特定の投手の使い過ぎは問題になるということです。
リーグ戦は選手の「精神的負担を減らす」ことにメリットは?
また、リーグ戦はトーナメント戦と違い「負けても次がある」ことから、「選手たちの心理的な負担を減らせる」という意見もあります。
この意見に対しては、「え?高校生は何のために野球をやってるの?」と感じます。
高校球児のほとんどは、プロになって「野球で飯を食べる」わけではありません。ただ野球がやりたいから、高校で野球部に入っているわけです。
指導者の側からすると高校野球は教育の一環で、高校生の野球の技量を上げるだけでなく、人間的にも育てていくという目的を持っています。
もちろん高校生の方は、「人間的に育ってやろう」と思って野球をしている子は少ないと思いますが、結果的に野球を通じて成長できればその子のためになりますよね。
人間が成長できるのは、「負けても次がある」環境よりも、「負けられない」真剣勝負においてではないでしょうか?
「そんなプレッシャーを高校生に与えるのはかわいそう」という人たちは、高校生が好きで高校野球をやっていることを見落としていると思います。
高校球児は、真剣勝負がしたくて、高校野球の世界に自ら入ってきていると思うのですが、違いますかねえ?
「負けても次がある試合」は練習試合で行なわれている
他にリーグ戦の導入のメリットとして挙げられるのが、「負けても次がある、失敗ができる状況でしか選手は成長できない」という意見です。
確かに成長のためには試行錯誤が必要で、失敗するかもしれないチャレンジができる場は必要です。
しかし、「負けても次がある」試合はどの高校も練習試合で数多くこなしています。
練習試合こそが、高校野球では試行錯誤の場なのです。
「練習試合なんて…」と思われる方もいるかもしれませんが、強豪校どうしの練習試合って結構真剣ですよ。「負けても次がある」リーグ戦並みの緊張感はあると感じます。
わざわざリーグ戦を導入しなくても、試行錯誤できるという条件で試合をする環境は、既にすべての高校で整っています。
U18の試合のためにリーグ戦導入というのは論外
最後に「U18の試合はリーグ戦だから、高校野球はそれに合わせるべき」という意見もあります。
これは…賛同できませんねえ。
U18の大会は、世界に野球の輪が広がるように行われる国際大会。
世界的スポーツとは言えない野球を、若い年代でも盛り上げていこうという大会で、WBCのアンダー版です。
もちろん勝つに越したことはないのでしょうが、日本の野球人気が下がるリスクを冒してまで勝ちに行く大会ではないのでは?と思います。
むしろ日本で野球人気が下がってしまうのでは、野球の国際大会が望んでいることとは正反対ではないでしょうか。
まとめ
こんなに長文を書くつもりではなかったのですが、高校野球のリーグ戦導入について考えていると、反対意見が多くて、つい長くなってしまいました。
もちろん高校球児のメリットになるのであれば、リーグ戦導入も一考の価値はあると思いますが、現段階では私はまったくメリットを感じません。
特に「リーグ戦を導入すれば投手の負担が軽減する」という考えは、大学野球の現状を見る限り、幻想だと感じます。