2023年夏の高校野球神奈川大会決勝では、勝敗に大きく関係する、波紋を呼ぶ微妙な判定がありました。
9回の慶応の逆転3ランの呼び水となった、ゲッツーがオールセーフとなった「ショートが2塁でベースを踏まなかった」という判定ですね。
私はこの試合を現地・横浜スタジアムのバックネット裏で見ていました。
現地で見た者として、この判定そのものというよりは、その後のネット上の騒ぎに対して思うことがあったので、考えをまとめておきます。
私は慶応ファンでも横浜ファンでもなく、神奈川だったら東海大相模派。それなりにフラットな立場から意見を言えるかなと思います。
両ベンチも観客も普通にアウトと思った
さて…問題のシーンは、現地では「普通のダブルプレー」に見えました(ファーストは肉眼でもセーフだったので正確にはゲッツー崩れですが)。
普通といっても、横浜のショートは日本高校野球界を代表する名手なので、非常に動きは良かったですけどね。
私はバックネットのほぼド真ん中上方にいましたが、そこからでも普通にベースに触れた動きに見えました。
私の位置からもそう見えたくらいなので、横浜、慶応のベンチからも同じように見えたでしょう。
横浜の監督さんが抗議したのは、常にアウトになっているプレーであったからでしょうし、慶応の監督さんも試合後に「運も必要」というコメントを残したことを考えると、あれがアウトでも慶応からは何の抗議もなかったことが推測されます。
これがにセーフになるのは「確実に踏んでいない」場合では?
現地ではそれ以上確認できないので「ベースに触れているように思ったけどなあ…」で終わりました。
ですが帰りの電車の中で、多くの観客がスマホでチェックしている声が聞こえてきました。「踏んでないけど触れてるよね?」
両校はファンが多いこと、神奈川は高校野球熱が高いことで、かなりの動画が出回ったようです。
私には動画でもつま先でベースを蹴っているように見えますが、人によっては触っていないように見えるようですね。
要するに、ベースに触れている確たる証拠も、触れてない確たる証拠もない、と。
今までの私の高校野球観戦歴だと、「ベースに触れていない判定」がされてきたのは、「触っているかわからない場合」ではなく、「確実に触っていないといえる場合」です。
こんな微妙なベースタッチが、ベースに触れていないと判定されたのを見たのは、私の観戦歴の中では初めてですね。
主審の交代、試合時間の長さ…塁審は頑張りすぎた?
ではなぜ、あまり見たことがないような守備側に厳しいジャッジが、あの場面で起きたのか。
現地で見た者としては、あの試合の特殊な事情がいくつかあったように感じます。
主審も体調不良で交代し、酷暑の中、何となく球場全体に「面白い試合なんだけど長いな…」という雰囲気もあり、その中で審判団は「しんどい状況だけど最後までしっかり役割を果たそう」と、気合が入りすぎたのではないか…と。
交代した主審のストライクゾーンも厳しめで、「早く終わらそうと思ってはいけない」という使命感が…ありすぎたんじゃないかなあ。
あれだけの暑さですから、選手たちだけでなく審判団のメンタルも大変だったのだと思います。それが普段はしないような厳しいジャッジにつながったような気が…。
あの場面は、少なくとも審判団が集まって協議すべきだったと思うのですが、説明を求めに来た横浜の選手に対し、主審は「私ではなく二塁審に聞いてください」というジェスチャーで、途中から交代した主審も余裕がなかったのかもしれません。
神奈川の特殊事情…クーリングタイムより良い方法はないか?
しかし、同じくらいの暑さである関東近辺の他県の決勝では、審判団にはもう少し余裕があったように見えました。
埼玉決勝でも誤審がありましたが、審判団が誤審を即座に認めて謝罪し、判定を覆しました(不利な方に覆された花咲徳栄からは何の抗議もなかったので正しい判断だったのでしょう)。
神奈川では他の試合でも主審が体調不良になり、神奈川大会の審判は大変なのだろうなと思います。
神奈川は高校野球熱が高くてお客さんがギッシリ入りますし、応援団のボリュームがスゴイです。この熱気と音の大きさは、審判団を消耗させるのでしょう。
余談ですが同じように野球熱が高く、応援団の音の大きさではどこにも負けない千葉も、結構誤審騒ぎが多いですよね。
審判団の体調管理のためにクーリングタイムが設けられていますが、試合時間が延びることにつながってしまっていて、どれだけ助けになっているかなあ…という気持ちもあります。
クーリングタイムは全然あっていいけど、10分でなく5分にして、神奈川(や千葉)のような大会では、上のステージでは主審だけでも5回で交代する制度があってもいいような…。
まあ野球素人の意見ですからどうかなと思いますが、エース完投型のチームは少なくなっているし、投手が完投しない場合は主審の交代はそれほどストレスですかね?捕手は大変でしょうけど。
もしくは審判はシフト型にして、一人シフト交代要員を置いてて、どの審判も1イニング表裏は休めるようにするとか…。
審判を守るためにプロ野球のようなリクエスト制度があってもいいと思いますが、それが難しければモニターチェックする審判を置いて、疑わしい場合にはタイムをかけるとか。
いずれにしても柔軟に知恵を出し合って、真夏の審判団の負担を減らせるといいなと思います。
一番の問題は試合を見ていない人々の勝手な意見
判定に対する私の考えや、これからどうすればよいかについての意見は以上になりますが…今回の騒ぎで最も問題だと感じたのは、高校野球に実は興味がない&明らかに試合を見ていないと思われる人々の、ネットでの勝手な意見ですね。
たとえば「ショートがカッコつけたプレーをするからだ。余裕があるんだからベースをしっかり踏めばよかったんだ」という意見。
…余裕はなかったんですよ。投手は疲れが見え慶応打線に捉えられていて余裕がなかったから、投手を助けるためにギリギリのダブルプレーを狙った主将の気持ちがわかりませんか?試合を見ていないから「余裕があった」なんて思うのでしょう。
それから「審判にわかりやすいプレーをするべきだ」という意見にも唖然です。野球は採点競技ではないですよ。こんなこと言うなら投手はゾーンギリギリのストライクを投げられなくなりますね。
また「審判は権力のある慶応びいきだったんだ」とか、よくそんな適当なことが言えるな…と。慶応にそんな力があるなら、2017年のセンバツ落選はないでしょう。
最近の高校野球に関するネット言説は、アマチュアの選手・指導者・審判団に対して、あまりにも配慮のない意見があります。
配慮がない上に、「高校野球(の歴史)をよく知らない」「試合全体を見ていない」で適当なことを言われると、たまったものではありません。
高校野球に関するコメントは注目されやすいので、SNS等でコメントしたくなるのでしょうが、相手はアマチュアです。軽はずみな発言は慎んでほしいです。
高校野球が盛り上がることは良いことなのですが、ネット時代の(私自身も含めて)高校野球を見る側の態度は、もっと成熟したものでなければならない…改めてそう感じました。