中島みゆきさんの楽曲「仮面」の歌詞について考えてみました。
「仮面」はどんな歌?
「仮面」は中島みゆきさんが1988年に発売したシングル曲です。
アルバム「中島みゆき」にも7曲目に収録されています。
一番の特徴としては、作曲が珍しく中島みゆきさんではなく、甲斐よしひろさんだということです。
穏やかでのんびりしたメロディーに、割とトゲのある歌詞が乗っかっていて…聴き心地のよい楽曲ではないですね(笑)。
私は最初に聴いたときはあまり良い印象がなく、「アルバム『中島みゆき』には他に名曲があるのに、なんでこの歌がシングル発売されたんだろう?」と思ったほどでした。
ですが「仮面」は聴けば聴くほど…というか、歳を重ねるうちに好きになっていきました。
まあ最初に聴いたのはまだ義務教育時代でしたから、「羽振りのよかった時代のように」とか言われてもピンとくるわけないんですけどね。
中島みゆきさん作品には「聴けば聴くほど好きになる」系の歌があると思っていますが、私にとって「仮面」はその代表格です。
タイトル「仮面」が意味することは?
「仮面」の歌詞が描く物語は、それほど難解ではありません。
羽振りのよかった時代のように
思い上がった口をききなさい
「あんた」というぞんざいな二人称で呼ばれる男性が、成功の時代が過ぎて、転落の一途をたどっている。
歌の主人公である女性は、落ちぶれて故郷へ戻ってきた「あんた」を冷たい目で見ている。
こんな感じでしょうか。
この歌のタイトルは「仮面」ですが、歌詞の中に一度も「仮面」が登場しないことが大きな特徴です。
では、なぜ「仮面」というタイトルがつけられているかというと…
あれはあんたの正体じゃないか
知ったことじゃない あんたの痛み
勝手に底まで落ちぶれるがいい
「あんたの正体」という言葉が登場することから、「あんた」は仮面をつけていたということがわかります。
落ちぶれて正体を現したということから、成功していた時代の「あんた」は「仮面」をつけた仮の姿だったと言いたいのでしょう。
ぼろぼろになって 獣がむせぶ
失うものは もう何もない
成功の時代が終わり転落が始まると、【地位】【お金】【名誉】【きらびやかな人脈】【高級車】【高級な部屋】【身に着けていた高級服や装飾品 】【身にまとっていた自信】…つまり、仮面を全て失い、ただの「獣」になってしまった、と。
ちなみに中島みゆきさんの歌では、「瞬きもせず」にも「獣」という表現が出てきて、何も持たない存在というような意味で使われています。
「仮面」をかぶったもう一人の存在は?
以上のように、タイトルの「仮面」は、「あんた」が「羽振りの良かった時代」に、身に着けていた虚飾の数々を指していることが推察されます。
しかしこの歌には、もうひとつの「仮面」が存在しているように思います。
その「仮面」は誰の仮面かというと、歌っている主体である「あたし」。
「あたし」は、何もかも失くして故郷に戻ってきた「あんた」を表面上は冷たくあしらいます。
おあいにくさま 何を期待してたの
甘い慰め 無言のぬくもり
傷ついた「あんた」は、「あたし」が優しくしてくれることを期待していたようですが、「あたし」は「おあいにくさま」そんなことをしてあげる気はない。
知ったことじゃない あんたの痛み
「あんた」が傷ついていようが「あたし」には関係ない、と、突き放します。
しかし、この「あんた」のことなど関係ないという冷たい態度が、これも「仮面」であることが推察されるフレーズがあります。
ぼろぼろになって 獣が眠る
あたしは邪険に 抱きしめる
「獣」は何もかもなくした「あんた」のことを指しますが、「あんた」が眠ったら…「あんた」が見てないところでは、今度は「あたし」が「仮面」を脱いで正体を現すのです。
「あたし」の正体とは…本当は「あんた」に優しくしたいという本音、ですかね。
「邪険に抱きしめる」というのが、中島みゆきさんならでは面白い表現ですが、たとえ眠っていても愛情たっぷりには抱きしめられないほど「あんた」に何らかの恨みはあるけど、やはり抱きしめられずにはいられない。
こういう二重の「仮面」が存在しているのが、味わい深いです。
「仮面」は究極の愛情ソング!?
「仮面」には、三度繰り返されるこのようなフレーズもあります。
ねえ 覚えてやしないでしょう
あたし あんたが文無しだった
頃から 近くにいたのにさ
近くで 見とれていたのにさ
何でもないようなフレーズですが、「仮面」というタイトルを思うと、この部分もなかなか味があるんですよね。
「あんたが文無しだった頃から見とれていた」というのは、「あんた」が「仮面」をつける前から、「あたし」が「あんた」を好きだったということです。
つまり「あたし」は、「仮面(=地位、お金、名誉…)」なんてものを持っていない、素の「あんた」が好きなのだ、と。
「仮面」は「知ったことじゃないあんたの痛み」だなんて冷たいことを歌っているようで、この部分に着目すると、「何もかもなくしてもあなたが好きだ」という、究極の恋愛ソングに聴こえてきてしまいます。
めっちゃツンデレですけどね!
成功の時代が終わって転落してしまっても、素のあなたを愛してくれる存在がきっとどこかにいる…そんな励ましソングでもあるのかもしれない…ですね。
まとめ
中島みゆきさんの「仮面」の歌詞についての考察でした。
「仮面」の歌詞では、この部分も何だか好きです。
下りの坂なら 落ちる先は海
確かに島国日本では、下り坂を延々と低い方へ下って行けばいつかは海にたどりつくのでしょうが…「落ちる先は海」というのは、ただ落ちるだけではなく、やさしく受け止めてもらえそうな雰囲気も出ています。
辛辣な言葉が並ぶ「仮面」の歌詞ですが、ふっとこのような詩的表現に癒されます。
「仮面」を聴くなら、アルバム「中島みゆき」か、シングル曲を集めた「SinglesⅡ」がおすすめです。