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中島みゆき「吹雪」歌詞を考察・解釈。目に見えないものの恐ろしさ

中島みゆき
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中島みゆきさんの楽曲「吹雪」の歌詞について考えてみます。

中島みゆき「吹雪」はどんな歌?

吹雪」は、1988年に中島みゆきさんが発表したアルバム「グッバイ・ガール」の、一番最後に収録されている歌です。

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私が中島みゆきさんのファンになったのは1990年前半くらいからで、1988年発売の「グッバイ・ガール」は、過去の中島みゆきさんのアルバムを集めていた時期に購入しました。

ぽこ
ぽこ

そのため「吹雪」も発売直後にリアルタイムで聴いたわけではないです。

「グッバイ・ガール」に収録された歌はあまり好みでないものが多く、それほど聴かないアルバムなのですが、「吹雪」は非常にインパクトのある歌で結構好きな歌です。

ですが…この歌は怖い

「グッバイ・ガール」をおこづかいで購入した時、私はまだ中学生になったばかりくらいで、暗い曲調といい、死を暗示、もしくは直接表現するような歌詞が非常に怖くて…。

中島みゆきさんは1990年後半以降は情感を込めた歌い方が多くなりますが、「吹雪」は感情を読み取れないような声で淡々と歌っています。その淡々さも異様に怖いです。

原発反対運動がモチーフという定説

「吹雪」の歌詞は、中島みゆきさんのファンの中では「難解」としてよく知られていますが、頑張って解釈してみます。

「吹雪」全体の歌詞はUta-Netでご覧ください

「吹雪」はファンの間ではその独特な世界観でよく知られている名曲でしたが、東日本大震災後に原発に関連のある歌として話題となり、広く知られるようになりました。

「吹雪」の歌詞は、「第五福竜丸事故(1954年)」「泊原発建設反対運動(原発は1989年に運転開始)」がモチーフだとされているのです。

このことはWikipediaにも記載があるため、それなりに根拠がある説であることが推察されます。

泊原発は中島みゆきさんの故郷の北海道にあり、中島みゆきさんは幼少期に近くに住んでいたことがあるそうです。

泊原発は「吹雪」が発表された1988年の1年後に運転開始しているため、反対運動は「吹雪」の制作時にはリアルタイムで行われていたのでしょう。

一方、第五福竜丸事故は1954年で、「吹雪」が発表される30年以上も前の出来事です。

1952年生まれの中島みゆきさんの記憶に残っているとは考えにくいので、泊原発反対運動の中で取り上げられたのかもしれません。

広い意味では個人と世界の「死」がテーマに思える

私は東日本大震災後に話題になるまで、「吹雪」が原発と関連のある歌であることを知りませんでした。

そのことを知る前は、何を歌った歌なのかと思っていたかというと、「個人と世界の死」がモチーフだと考えていました。

冒頭の

日に日に強まる吹雪は なお強まるかもしれない

日に日に深まる暗闇 なお深まるかもしれない

この部分は中島みゆきさんの「老い」を歌った「傾斜」という歌の、「のぼりの傾斜はけわしくなるばかり」という表現を彷彿とさせ、人生が死に近づいていくことを表しているように思えたのです。

また、サビの終わりの部分の

どこにも残らぬ島なら 名前は言えない

この部分は、「どこにも残らぬ島」=「世界が滅亡すること」を表しているように思われ、人間は死に、世界もいつか死ぬ。

はじめから無かったことになるのだろう

…と、自分も世界も終わるという事実は、私の人生を完全に無にしてしまう…「死」という厳しい絶望を歌っているのかと。

ただし、一般的な「個人と世界の死」というテーマという視点で考えると、意味がよくわからない歌詞があるなあ…と思ってもいました。

後述しますが、そういった謎のフレーズたちは、原発に関する歌だと言われると腑に落ちる部分もいくつかあります。

とはいっても原子力のエネルギーは個人の生も世界も終わらせる力として働く側面があるため、広義では「死」がテーマの曲ともいえるのかなと思います。

被爆をキーワードにすると読み解けそうな2番の歌詞

私が「吹雪」という歌の中で一番怖いと思っていたのが、2番のAメロの歌詞です。

恐ろしいものの形を ノートに描いてみなさい

そこに描けないものが 君たちを殺すだろう

間引かれる子の目印 気付かれる場所にはない

パッと深い意味まではわからなくても、本当に怖い…。

逆に意味がよくわからないことが怖い…と思っていましたが、被爆事件、原発建設…と結びつけると、少しだけ意味が見えてくる気がします。

被爆の原因となる放射能は目に見えません

だからこそ「ノートに描いてみなさい」と言われても描けない。

1番の歌詞にあるように

日に日に打ち寄せる波が 岸辺を崩すように

目に見えない放射線が、日々の生活で少しずつ体内に蓄積し、少しずつ健康を破壊し、いつかは命を奪ってしまう。

放射線は目に見えないため、影響をたくさん受けて「間引かれる子」=「死んでしまう人」が誰なのかは見た目ではわからない(=目印が気付かれる場所にはない)。

…こんな感じで読み解ける気がしてくる部分ですが、「目に見えないものがジワジワと自分の身体や世界を蝕む」というのは、放射線だけに限らず、自然破壊、ウィルス…などの特徴でもあるように思います。

そう考えると、「吹雪」は必ずしも原発というテーマに限定して聴くだけでなく、人間を脅かす目に見えないものについての一般的な警告としても受けとめることもできます、

なぜ「名前は言えない」のか?

「吹雪」の1~3番で歌われるサビの歌詞を見てみます。

どこから来たかと訊くのは 年老いた者たち

どこにも残らぬ島なら 名前は言えない

解釈が難しくはありますが…

水爆実験の事故、原発建設…ということと結びつけるなら、「どこにも残らぬ島」=放射性物質に汚染されて人間がいなくなった地域と考えられるでしょう。

東日本大震災の原発事故の後に、福島の子どもたちが避難のため引っ越すと、「放射能がうつる」と転校先でいじめられたという問題が起きました。

歌詞にある「どこから来たかと尋ねられても答えられない」という表現は、こういった状況に驚くほど合致しているなと感じます。

中島みゆきさんがそういった意図でこの歌詞を書いたかどうかは本人のみぞ知るですが、大震災を経験した後の私たちには、心に突き刺さるフレーズです。

3番を「ブーム」と結びつけて読み解いてみる

3番だけはサビに続く歌詞があり、こうなります。

どこから来たかと訊くのは 年老いた者たち

どこにも残らぬ島なら 名前は言えない

誰も言えない

はじめから無かったことになるのだろう

ここの部分を考えると、「どこにも残らぬ島」は「はじめから無かったことになる」…となります。

ここは3番のAメロと結びつけて考えたいと思います。

3番のサビの前は、こういう歌詞になります。

降り積もる白いものは 羽の形をしている

数えきれない数の 羽の形をしている

あまりにも多過ぎて やがて気にならなくなる

ここは難しくて、「白いもの」は放射性物質の降灰を示している、「羽の形」は放射性標識のことだ…などの説があります。

私には何ともわからない部分ですが、直接的な意味としては使っていなくても、縁語(=テーマに関連する単語を盛り込む)として使われている可能性もあるのかなと思います。

3番は、「吹雪」のもう一つのテーマともいわれる「ブーム」と結びつけて読み解くこともできるように思います。

羽は、人々の心の軽さを表している。

数えきれない数の羽が降り積もるように、軽い関心が大きなブームを作る。

そしてブームが大きくなりすぎると、いずれブームは終息し、羽が舞い散るように浅くて軽い人々の心は他の関心事へと移り、今まで気にしていたことを気にしなくなってしまう。

そうやって「どこにも残らぬ島」は、人々に忘れ去られるという意味でも「残らぬ島」となり、「はじめから無かった」ような無関心さでしか受け止められなくなる…。

…こういう解釈もできますかね。

「何もない闇の上」を吹雪が吹く世界とは?

「吹雪」は4番の歌詞でこう締めくくられます。

疑うブームが過ぎて 楯突くブームが過ぎて

静かになる日が来たら 予定どおりに雪が降る

どこから来たかと訊くのは 年老いた者たち

何もない闇の上を 吹雪は吹くだろう

原発と結びつけて考えると、原発反対運動のブームもいつかは終息し、人々が関心を持たなくなったら、原発が普通に日常に溶け込んでいく。

原発以外のことと結びつけても、戦争や自然破壊も、反対運動のブームが終われば日常化していく。

そして「予定どおりに雪が降る」=世界がジワジワと侵されて、終わりに近づいていく。

そうですね、4番は最初に聴いた時からずっと、世界の終わり…終末的な雰囲気を感じます。

「何もない闇の上」とは滅亡後の世界であり、滅亡後の世界は、世界を滅ぼすことになった物質(=「吹雪」で象徴)が吹き荒れて荒涼としている…。

「吹雪」という歌は、強まる吹雪/深まる暗闇で始まり、何もない闇の上を吹く吹雪で終わる。

やっぱり、中島みゆきさんの強い警告としてのメッセージを感じますね。

全部の細かい意味はわからなくても、最初に聴いたときに私が「怖い」と思ったあの感じ。

この歌が警告ソングであるならば、あの恐怖感を与える中島みゆきさんのメッセージ力は改めてすごい…と感じる次第です。

まとめ

非常に解読が難しい「吹雪」の歌詞を、力が及ぶ限り考えてみました。

いろいろな聴き方ができますし、かなり深く考えさせられます。

まだよくわからない部分もたくさんあるので、新しく何か思いついたら再考してみようと思います。

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