何でもいいから本読みたいな…
特にお目当ての本がなく、次に読む本がなかなか決まらないという時は、長ーく売れ続けている作家さんの作品にはハズレが少ない気がします。
そんなわけで手に取ったのが宮部みゆきさんの「R.P.G.」。
読み終わったのでさっそく感想を書いてみます!
ネタバレなしのざっくりレビュー
タイトル「R.P.G.」は「ロール・プレイング・ゲーム」の略です。
ロールとは英語で「役割」のことで、「ロール・プレイング・ゲーム」は「役割を演じるお遊び」くらいの意味になるでしょうか。
要するに「ごっこ遊び」ですね。
インターネット上で疑似家族ごっこをしていた「お父さん」と、その「お父さん」の現実世界の愛人が殺されるという事件から物語が始まります。
この2つの事件は、「お父さん」=現実世界での所田良介がネット上で家族ごっこ…つまり「R.P.G.」をしていたせいで起きたのか?
犯人はネット上でつながった人物か?それとも現実の所田良介とつながっていた人物か?
「お父さん」とネット上で疑似家族を形成していた人物たち、それから所田良介の現実の家族…いったいどちらが犯人として怪しい?
物語は、出来事が進展するというよりは、登場人物たちの心情を読み解いていく形で進みます。
読み進めながら、ひとりひとりの人物の心情、「お父さん」もしくは所田良介との関係が少しずつ実感されて、淡々と進む話なのに次が気になってやめられませんでした。
本が読むのが遅い私でも、1~2日であっという間に読んでしまいました。
タイトルの意味深さに身震いする終盤
さて「R.P.G.」は、ミステリー小説としてはそれほど面白いとは思いませんでした。
途中から犯人が誰かは薄々わかりますし、犯人の動機にも私はいまいちリアルさを感じませんでした。
しかし読後感は、すごいものがありました。
というのも終盤になって、タイトルの意味に気づいたとき、身震いするような変な恐怖感を感じました。
「R.P.G.」とは、ネット上の疑似家族ごっこのことを指すタイトルなんだなと思いながら読み進めるのですが、作品終盤で、それだけでないことに気づかされるのです。
まさか、マジックミラー越しに一美の前に現れる疑似家族たちは、すべて警官が演じていたなんて、一美も思わなかったかもしれませんが、私もまったく予想していませんでした。
ハイ、二重の「R.P.G.」になっているんですよね。
ネット上で疑似家族を演じる人たち。そしてその疑似家族をさらに演じる警官たち。
…なんか怖くありませんか?
何が怖いって、この現実の人間世界で起こることはすべて演じられたもの…私たちは自分の人生を「演じて」いるのだと、突きつけられているような気がしました。
私が自分の人生を演じ、世界は無数の「R.P.G.」で成り立っていると考えると、本当の私、本当の世界なんて存在しないんじゃないのか…。
実は、主人公扱いの武上という刑事さんも、実は入院している「ナカさん」が本来なら演じるはずだった役を、代役として演じているんですよね…。
この、作品構成の緻密さには脱帽ですよ…。さすが宮部みゆきさんです。
「A子」という扱い方のうまさ
さて、もう一つ「R.P.G.」という作品に仕込まれたトリックは、「A子」の存在ですね。
作品序盤で、この事件の容疑者として登場する、所田良介と共に殺害された愛人・今井直子に、恋人を横取りされた恨みを持つ人物です。
この人物が、「確たる物証がないから」という理由で、捜査本部内で「A子」と呼ばれていることから、作品では「A子」と呼ばれます。
でも、読み終わったら今になって思えば、読者にまで「A子」の本名を伏せる必要はないんですよね。
なぜ「A子」は本名を伏せる形で物語に登場したのか…それを物語の最後に、読者は一美と同じタイミングで「そういうことだったのか!」と気づくわけです。
宮部みゆきさんが、一美と読者を同時にだましているということですね(笑)。
このへんの物語構成の上手さは、本当にさすがとしか言えません。
まとめ
宮部みゆき「R.P.G.」の感想でした。
宮部みゆきさんの本を読んだのは「火車」「ソロモンの偽証」に続いて3作目です。
ミステリー小説、骨太さという意味では「火車」「ソロモンの偽証」の方が面白いですが、作品の深さという点では「R.P.G.」が一番うならされました。