高校野球はアマチュアスポーツでありながら、「応援されやすい高校」と「ヒール校(悪役)」が存在している世界です。
特に甲子園での試合では、アルプススタンドの応援団だけでなく、球場全体のお客さんが、片方のチームに肩入れして応援してしまうことがあります。
今日(もう昨日ですが)甲子園の試合を見ていて、そのことでちょっと考えさせられることがありました。
あの東邦戦以来の出場、八戸学院光星の勝利
昨日、青森代表の八戸学院光星が初戦突破しました。
光星といえば2年前、2016年の東邦戦を思い出す方も多いでしょう。
最終回に、球場全体のお客さんが東邦のブラバンに乗って手拍子やタオル回しを行い、球場全体が敵に感じられる中、光星は4点リードをひっくり返されて、逆転負けをしました。
なぜ地元でもない愛知の私学・東邦に、お客さんが一方的に肩入れしたのか?と疑問に思われるでしょうが、東邦が人気というより、光星が「ヒール(悪役)」の条件をそなえていたことが大きいです。高校野球で、甲子園のファンから声援を受けにくい条件は…
- 東日本の高校
- 私立の常連校
- 県外出身選手が多い
- しかもとりわけ大阪出身が多い
光星は、この1~4をすべて満たしてしまっていたのです。
昨日の対戦相手は、甲子園の地元・兵庫代表の明石商だったので、今回もまた、球場は相手チームを応援するファンが多かったです。
2年前の東邦戦の経験から、このような完全アウェイの試合にそなえていたのか、光星はスタンドの雰囲気にのまれることなく、しぶとく延長戦を制しました。
「観客に応援されるチーム」を作らなきゃいけない?
私が気になったのは、テレビ中継や試合の前後の記事で見聞きした、光星の監督や選手のコメントです。
あの東邦戦をふまえているのだと思うのですが、「観客のみなさんに応援されるようなチーム作り、試合をしたい」。
参考リンク 試合前の監督対談(朝日新聞デジタル)
アマチュアの高校生のチームが、周囲に愛されるようなチーム作りに気を配らなければならないとは…。
あの東邦戦を思うと、何だか胸が痛くなるコメントです。
プロ野球のように「ファンあっての」ではなく、高校野球はまったく逆で、高校野球にたずさわってくれる指導者・選手がいてこそ成り立つコンテンツで、その後にファンがいるのに、その構造がゆがんでいることに気づかされます。
強豪私学の中には、あれこれとバッシングを受けた後、県外選手をとるのをやめて、地元の選手たちを中心にチーム編成するようになったチームもあります。
高校野球ファンに「忖度」した結果、なんでしょうね…。
「忖度」以外に完全アウェイと戦う方法はあるか?
この高校野球ファンへの忖度が、甲子園で四面楚歌にならないため(つまり選手を守るため)の方策ならば、仕方がない部分があります。
「県外出身者が多いチームをたたくのをやめるべき」という声をあげても、長い時間をかけてつくられた高校野球ファンの傾向は、そう簡単に変わるものではありません。
しかし、完全アウェイ状態の中でも、全国制覇を達成したチームがあります。
それは、2015年の東海大相模です。
決勝の相手は東北初優勝をかけた仙台育英で、決勝戦の甲子園スタンドは、仙台育英応援が圧倒的に多かったです。
また、県予選の神奈川大会決勝も、横浜高校の名将・渡辺監督が引退を表明していたこともあり、横浜応援が多い中で行われました。
エースだった小笠原投手(現中日)は、「いつも相手ばかり応援される」と思う気持ちもあったようですが、「僕は昔からプロレスでもヒール(悪役)が好きだったし」と、見事に悪役側として、神奈川大会優勝・全国制覇を果たしました。
この時の東海大相模は、非常に強いチームだったので、確固たる自信のもと、精神的にタフな戦いができたという面はあります。
ですが、2015年の東海大相模のスピリッツから、ヒール校が学べるところはあるのではないかと思います。
書いていて思ったんですが、コレはアレですね。スラムダンクの名言「ワルモノ見参!!」。
さすがに赤木主将の「悪いが皆さんの思い通りにはならん………」は、現実の高校生には無理なセリフだと思いますが(笑)、悪役を演じることを楽しむというのも、ひとつの方法かもしれませんね。