「火の鳥」再読中です!
3巻目にあたる「ヤマト編」の再読が終わりましたので、感想を!
「火の鳥・ヤマト編」こんなあらすじ
「ヤマト編」は火の鳥の3巻目ですが、時系列としては2巻目の未来篇ではなく、1巻目の黎明編に続く時代です。
黎明編は日本という国のことが文献に初めて登場する3世紀前後のお話で、邪馬台国などが登場します。
ヤマト編はもう少し後の時代、飛鳥地方の石舞台古墳にまつわるお話。
埴輪がまだ登場せず、殉死の風習が残っていることを考えると、古墳時代の前期・4世紀頃の物語だと考えられます。
あらすじを簡単に書くと…
ヤマト(奈良地方)の王が自分の墓を盛大に作ろうとしていたところ、クマソ(九州)の王が、自分の意図とは違う歴史を書き記していることを知る。都合の悪い歴史書を書かれたら困るということで、息子のオグナを討伐に向かわせるが…
ネタバレなしで書くとこんな感じですね!
ヤマト編の特徴は、黎明編・未来編と違って、ギャグ要素がかなり多いということ。
手塚治虫のギャグはあまり笑えないという方もいますが、私はヤマト編はまあまあ可笑しいです。王様の最期のセリフとか…。
末来編の重々しさとくらべると、ヤマト編のこの軽い雰囲気は、同じ「火の鳥シリーズ」とは思えないほどです。
ヤマト編は、火の鳥シリーズでは一番おふざけの多い物語かな、と思います。
でももちろん、そのおふざけの中に、手塚治虫ならではの熱くて深いメッセージが込められています!
歴史とは物語である
ヤマト編は明日香村に今でも残る石舞台古墳を舞台にした物語です。
石舞台古墳はむき出しになっているお墓で、前方後円墳とは全然違う形をしています。
名前の通り、お墓というよりは石の舞台のような古墳なのです。
「蘇我馬子の墓ではないか」とも言われますが、謎の残る古墳で、手塚治虫は物語の最初にこう切り出します。
なぜこんな中途ハンパな墓があるのでしょう?もしかしたらここに埋葬された王さまにいろいろ家庭の事情があったのかも……ひとつ……こういう物語はいかがでしょうか?
冒頭に、この物語が石舞台古墳にまつわる歴史的事実ではなく、手塚治虫による作り物語であることをソフトに語り出します。
そしてこの序文自体が、実は物語のテーマに沿っています。
ヤマト編では、ヤマトの王様が自分をたたえる歴史書を作ろうとしますが、クマソの首領・川上タケルもちょうど歴史書をしたためています。
ヤマトの王様は「自分に都合の悪いことを書かれたら困る!」と、クマソに征伐者を送る…という流れで物語が進みます。
ヤマトの王様はバカ殿みたいに描かれていますが、こういうヤバさがきちんとわかるあたり、実はバカじゃないのかも!?
ヤマト編はおふざけの多い作品ですが、途中に手塚治虫による真面目なモノローグが入ります。
ヤマト王朝の古事記とか日本書紀なんかにはそういうわけでクマソを未開人あつかいしたり悪人みたいに書いてある。もしクマソのだれかが当時のクマソの記録を書き残したとしたら古代日本の歴史はかなり変わっていたかもしれない。
(中略)
歴史とはあらゆる角度からあらゆる人間の側から調べなければほんとのことはわからないものなのである。
…説得力ありますね。
日本古代史を読み解くときにネックになるのは、非常に文献が少ないこと。
漢字の使用は古墳時代の4~5世紀には見られるので、文字がなかったわけではないのですが、日本最古の文献は8世紀の古事記を待たなければなりません。
では、古事記までに歴史について記した文書が一切なかったのかというと、今ではもうわかりません。
もしかしたら存在していたのだけど、火事など不慮の事態によって失われた、都合の悪いものとして破棄された…そんな可能性もあります。
40代の私が中高の日本史で習った江戸時代の身分制度「士農工商」は、現在の日本史の教科書には載ってないそうです。
「江戸時代は身分社会だったけど、明治維新によって近代的な平等社会が実現した」というイメージ作りの一環として、明治時代に作り上げられたもの…だなんて説も現在はあります。
文献に書いてある歴史が必ず正しいとは限らず、歴史書は「誰が」「どの立場から」書いたのかをふまえて読まなければならないということですね。
だからこそ、冒頭の手塚治虫のメッセージは心に響きます。
「ひとつ……こういう物語はいかかでしょうか?」
火の鳥はなぜオグナに生き血を与えたか?
ヤマト編では、火の鳥はオグナにかなり肩入れします。
火の鳥はクマソの守り神と言われていますが、火の鳥はそう思ってないみたいですね。クマソかわいそう…。
オグナがイケメンだから?私は川上タケルの方がカッコイイと思うんだけど…。
昔ヤマト編を読んだ時は、火の鳥が「オグナの笛の音色が気に入ったから生き血を分けた」と読めて、「火の鳥よ…それは軽すぎないか!?」と思いました。
ですが今回再読すると、オグナは火の鳥に血を分けてもらうより前に(16歳の人生相談あたり)、火の鳥に「ヤマトのお墓でいけにえにされる人々のために、火の鳥の血を持って帰りたい」と伝えていますね。
火の鳥はオグナが私利私欲のために生き血を欲しがっているわけではないことを知っていたので、オグナの命を救い、かつ生き血まで与えたんですね。
なのに「笛の音が~」とか言うあたりが、火の鳥は照れ屋なのか何なのか…。
オグナの「殉死反対」の理由と最期の言葉
それにしてもオグナの「殉死反対」はカッコイイですね。
人間は伝統を思考停止状態で受け入れてしまう傾向があり、「変えよう」と声を挙げたり、実際に変えることは困難なことです。
殉死反対の理由も単純明快でわかりやすく…
むだに死ぬことががまんならないんだっ
オグナは死ぬこと自体を否定しているわけではなく、臨終の際にはこう言います。
(死ぬことは)こわくないよ。ぼくは満足している。僕の一生はちからいっぱい生きてきたんだ。悔いはないよ。
オグナは父王の悪政と戦うことに一生を捧げ、悔いなく一生の終わりを受け入れます。
作中でモテキャラのオグナですが、確かにカッコイイかもね…でも、私は川上タケルの方が好みだわ…。
まとめ
「火の鳥・ヤマト編」の感想でした!
ヤマト編は黎明編の続きで、黎明編で最後に崖を上っていたグズリの息子が、クマソの長老になって登場します。
ですが黎明編を読まなくても、じゅうぶん楽しめるお話です。
また、ヤマト編に出てくる川上タケルもイケメンですが、妹のカジカもめっちゃカワイイんですよ(強気キャラだけど)!
手塚治虫が描く女の子は、元気で勝気な子がカワイイよな~と改めて感じた次第でした。
角川文庫版の火の鳥は、ヤマト編の後ろに11巻目にあたる「異形編」がついています。
1冊のページ数を同じくらいにするための措置なのか~と。
火の鳥シリーズは巻数が多いので、電子書籍で読むのもかさばらなくておすすめ!