私が手塚治虫の「火の鳥シリーズ」を初めて読んだのは、高校生の時です。
20年以上も前だ…。
あまりの面白さに夢中になり、すぐにおこづかいで買って集めました。
一番買いやすい値段だったのが、角川文庫から出ているバージョンだったため、全13巻の角川文庫版で集めました。
この角川文庫版は2019年に新装版となりましたが、その時に新しく14巻が出ました。
え?何で新しい巻が出るの?
と驚きましたが、火の鳥に関する資料や手塚治虫のインタビューなどを収録した、なかなか内容が濃い1冊となっています。
角川文庫版「火の鳥14別巻」の内容と、読んだ感想などをまとめてみます!
まずは「火の鳥14別巻」の内容をザックリと紹介!
角川文庫の「火の鳥14別巻」の構成は次のようになっています。
望郷編の初期設定バージョンCOM版
火の鳥ファンにとって「火の鳥別巻」で一番魅力的な内容は、望郷版COM版でしょう。
「火の鳥・望郷編」は、もともと全然違う物語として構想されていて、COMという漫画雑誌に57ページ掲載されました。
COMが休刊したため望郷編は中断してしまい、数年後に手塚治虫はまったく新しい望郷編を描き始めてしまいます。
その、57ページだけ描かれて中断した望郷編は「望郷編COM版」などと呼ばれ、「幻の望郷編」などとも言われます。
望郷編COM版には、ロミもエデンの星も出てきません。
驚くことに羽衣編の「おとき」が「時子」という名前で出てきます。
もともとの望郷編は、羽衣編とリンクしたお話だったんですね。
望郷編COM版については、もっと詳しい記事でまとめたのでこちらをご覧ください→幻の「火の鳥」…「望郷編COM版」はどんなあらすじ・設定だった?
乱世編の初期設定バージョンCOM版
「火の鳥・乱世編」も、望郷編と同じように漫画雑誌の休刊に関連して、途中まで書かれた別バージョンが存在します。
この別バージョンもCOM版と呼ばれます。
乱世編の別バージョンは、現在の乱世編と大きく異なる物語ではなく、赤猿と白犬、弁太に似た主人公とおぶうが登場します。
現在読める乱世編とCOM版の違いは…
…こんな感じです。
COM版の乱世編は途中で終わっていますが、おそらく大筋は、現在読める乱世編と同じだったのではないかという感じです。
コミックエッセイ「休憩」
「火の鳥別巻」で「望郷編COM版」の次に魅力的なものは、コミックエッセイ「休憩」の収録だと思います。
「休憩」はわずか6ページなのですが、手塚治虫が「火の鳥」で描く「宇宙エネルギー」について、漫画エッセイのような形で描いています。
これが「火の鳥」の核心に迫る思想で…「火の鳥とは何か?」という問いに対する答えになっているような、火の鳥について考えるための正に重要資料という感じです。
角川春樹氏との対談
「火の鳥・鳳凰編」は角川映画からアニメーション化されているそうですが、その製作総指揮を担当した角川春樹氏と、手塚治虫の対談が収録されています。
角川春樹氏は変わった人だなあ…という感じですが、普通に受け答えしている手塚治虫もやっぱりタダ者ではないのでしょうね。
手塚治虫が、火の鳥の「現代編」を描く難しさを語っている部分は非常に面白いです。
手塚治虫は「現代」とは話しているうちに「過去」になってしまうと言い…
ですから僕にとっての「現代編」は、僕の体から魂が離れる時をさすのだと解釈しています。描けないですからね、肉体がないから(笑)。そこで描けるなら、その時描きたいですね。それが僕の「現代の極限」なんですよ。
もはや哲学者…。
映画「火の鳥2772」のストーリーボード
火の鳥の映像化作品として、「火の鳥2772愛のコスモゾーン」という映画が1980年に発表されています。
この映画は、漫画として描かれた火の鳥シリーズを原作とせず、オリジナルストーリーとなっています。
ストーリーは手塚治虫が手がけ、3000枚を超えるデッサンのようなストーリーボードを描いています。
「火の鳥別巻」では、ストーリーボードの中から選んだ69枚に解説文を交えて、「火の鳥2772」のあらすじがわかるように編成してあります。
「火の鳥2772」のストーリーは…手塚治虫作品は漫画で読んでこそなのか、ダイジェストで読んでもあまり面白さは伝わってきませんでした。
「火の鳥2772」についてのインタビュー
手塚治虫はいくつかの雑誌で「火の鳥2772」についてのインタビューに答えていて、別巻にはその抜粋が収録されています。
このインタビューの中で、手塚治虫はこの映画は「メルヘン」「おとぎばなし」だと答えています。
この映画は、わたしの原作の「火の鳥」とは、まるでちがいます。【中略】たいへん単純でストレートな筋立てです、原作をよみこなしている人には、あまりにもシンプルすぎるかもしれません。
なるほど…。火の鳥原作ファンの私が「火の鳥2772」のストーリーをあまり面白くないと感じたのは、そのためかもしれませんね。
シンプルなストーリーの方が、この時代に可能なアニメ技術を実験的につぎ込みやすいと考えたのだとか。
確かに現代でも、わかりやすいストーリーの漫画の方が、複雑で難解な漫画よりもアニメ化では成功しやすい感じはありますね。
たとえば「鬼滅の刃」などは、アニメ化に非常に向いていた作品だったのではないかと思います。
ブラックジャック版の「火の鳥」!?
それから別巻には、「ブラック・ジャック」が一話収録されています。
「不死鳥」とサブタイトルがついたエピソードで、「火の鳥伝説」が残る長寿の村にブラック・ジャックが出向く話です。
村の人たちは「火の鳥」の血を飲むので長寿が多い…と言われていますが、火の鳥=フェニックスは「タダの鳥」であることが物語の最後に示唆されます。
ブラック・ジャックは天才外科医の話で、人間の生死を深く語る話が多く、火の鳥のテーマとも重なる部分があります。
このエピソードの中でブラック・ジャックは、不死鳥などいるはずがないし、いたとしても自分には要らないと言います。
おれの仕事は人間をなおすことだが人間を死ななくすることじゃない
物語の中には超長寿だけど体中が病気だらけで、まさに「生きているだけ」という老人が出てきて、「死なないこと」が人生の目的になるのか?ということを考えさせられます。
描かれなかった「大地編」の構想
別巻の最後には、1989年の上演されたミュージカルのための原稿が収録されています。
この原稿は、手塚治虫が構想だけ練って結局描かれなかった「大地編」のあらすじと重なっていると言われています。
1938年の日中戦争時代の話で、猿田博士が間久部緑郎という青年に、タクラマカン砂漠の湖に、生物に活力を与える未知のホルモンを血液中に含む伝説の鳥の話をします。
間久部緑郎は、日本軍の士気を高めるためにこの伝説の鳥を捕獲しにいくことになります。
で、最後にちらっと間久部緑郎の弟・正人が出てくるのですが…。
猿田博士…間久部緑郎(まくべ・ろくろう)=ロック…間久部正人(まくべ・まさと)=マサトって…未来編と登場人物が重なっている!
末来編大好きな私は、ぜひ大地編を読んでみたかったです!ロックも好きです!
まとめ
角川文庫版「火の鳥14別巻」の内容のまとめと、読んでみた感想でした!
「別巻に含まれる資料すべてが面白くてしょうがない!」ということはありませんでしたが、火の鳥ファンであれば「望郷編COM版」と「休憩」の2つを読むことはぜひおすすめしたいです!
羽衣編のオリジナルが収録されていたらもっと良かったんですけどね~!