先日、新潮45の問題で、久しぶりに「他者危害原則」という言葉を思い出しました。
参考 新潮45問題で考えた「言論の自由」と「思想の自由」の違い
私が「他者」という概念を大学で学んだのは、20年くらい前の話ですが、あれから20年経って、まだ日本には「他者」という概念はあまり根づいていないように感じます。
そのことについて思ったことを、つらつらと書いた文章です。
そもそも「他者」って何?
他者危害原則とは、「自由は、他者に危害を与えないという条件で認められる」というルールで、現代人は、これを当然だと考える人が大半でしょう。
さて、ここで気になるのは「他者」という言葉です。
ぶっちゃけ「他者」って他の人のことじゃないの?
ということになりますが、哲学の場では、「他者」の定義について議論されることがよくあります。
「他者」とは、「同じ世界の中にいる私ではない存在」のことなんですが、実は「他者」ってあいまいなんですよね。
「『他者』には動物は含まれるの?」とか、「鉄腕アトムは『他者』なの?」とか。
人によっていろいろな考えがありますが、私の考える他者は、
②私ではない存在
です。
①で過去・未来がつけ加わるのは、まだ人格が形成されていない赤ちゃんや、すでに他界した人物も他者だと感じるからです。
じゃあ「人格」って何?という話にもなるのですが、ここでは「人格」については追究しません。またの機会に…
ちなみに私の考える「他者」だと、動物は「他者」ではありませんが、鉄腕アトムは「他者」になります。この差は、「人格があるかないか」です。
「他者」が「他人」と同一視され「身内」と区別される社会
さて、この「他者」ですが、日本ではどうも、「他者」という概念が、あまり大切にされてないように感じます。
その原因は、「他者」よりも「身内」「他人」といった概念の方が、人とつきあう上でのベースになっているからではないかと考えています。
「他者」の定義にしたがうと、「身内」も「他人」も「他者」なのですが、日本人は「身内」に対してと、「他人」に対してのつきあい方があまりにも違うのです。
たとえば、私は両親に「あなたは私にとって他者」というような言い方をしたことがあるのですが、「身内に向かって『他者』だなんて…」という反応をされました。
日本人は、「身内は自分の一部であり、自分と同じ価値観を持つべき存在で、それを(よかれと思って)押しつけてもよい」と考える人は少なくありません。
これは、「身内」の持つマイナス面ですが、「身内」という人間関係にはプラス面もあり、「身内」が困っているときは、自分のことのように親身になって助けます。
このまったく逆が「他人」で、「他人」の価値観・行動には干渉しないかわり、「他人」が困っていても(よほどでない限り)スルーします。
そんなの日本に限ったことじゃないんじゃない?
と、私も思っていました。
ですが、ヨーロッパ旅行に行くと、道に迷った時、女性や高齢者が重い荷物を持って階段を上ると時は、当然のように通行人が手助けをし、風のように去っていくという経験が何度もありました。
ヨーロッパでは、「身内・家族・知人」と「他人」という区別はあるにせよ、両者がいっしょになった「他者」という概念が、日本より強いのではないかと感じます。
それゆえ、「身内」だろうが「他人」だろうが、「他者」が困っているときは、その困り具合を自分に置き換えて想像できるため助ける、という文化ができあがっているのではないでしょうか。
「他者」とのつきあい方を知ることが人間関係を改善する?
日本には独自の人間関係というものがあり、何もかも西欧思想が正しいということはないと思っています。
ですが、現代社会を生きる私たちには、「身内」「他人」というつきあい方は、もう窮屈になってきているのではないか、と感じます。
「身内」に過干渉されるのはストレスですし、仕事などで「他人」に物みたいに扱われるのも心が冷えますよね。
自分ではない人間を目の前にしたときに、その人が「身内」か「他人」かで態度を決めるのではなく、相手を自分と同じように人格をもった相手「他者」として向き合うこと。
自分と価値観は違うけど、思いやりを持って接する必要がある「他者」とのつきあいは、「身内」や「他人」とのつきあい方よりも、「この場面ではどうすればよい?」と頭を使うことでしょう。
その分面倒だし、難しいです。
ですが、日本人が少しずつ「他者」とのつきあい方を学んでいけば、現在、人間関係は日本人のストレスの大きな原因のひとつになっていますが、それを解決する一助となるのではないか…と、思います。
「他者」とのつきあいは、お互いが相手を思いやった上で対話して築いていくもので、理不尽なことは起きにくくなるハズ…。
まあ、人間関係はそんな単純なものではないのでしょうが、「他者」をキーワードにした生き方にチャレンジしてみようかな、と、小さくですが決意してみます。
で、できるかな~?