幽遊白書は敵キャラにもイケメンが多いですが、作品中、1、2位を争うイケメンのひとりが死々若丸でしょう。
ただ死々若丸は性格がひねくれていて、顔はハンサムですが「イケメンキャラ」とは言いづらいところがあります。
死々若丸のひねくれ方は、暗黒武術会で幻海と戦った時に「正義」について問答するシーンによく表れています。
なかなか興味深い問答なので、ちょっと丁寧に読み解いてみようと思います!
死々若の正義=虚構論
死々若丸は、幻海との戦いの決着をつける前に次のようなセリフを言います。
くくく心地よい瞬間が近づいてきた
正義などというくだらん幻想を抱く戯け者を葬り去る瞬間がな
幻海が「やけに正義にこだわるね。そんなに嫌いかい?」と返すと、死々若は
無論!!暴力は悪にのみ許された純粋な破壊行為!!貴様らえせ平和主義者に汚されたくないわ
…と答えます。
死々若丸は「暴力は悪だけが行うべき」と考えていて、裏返せば「善なる者はいかなる理由があっても暴力を振るうべきでない」となりますね。
いわゆる「正義の味方」は正当な理由から暴力を行使することがありますが、死々若はこの「正義」という概念を否定します。
暴力を行使する以上それはニセの平和主義であり、善であるというニュアンスを帯びた「正義」という概念は、それ自体が幻想、虚構であると。
私は少し死々若に同感してしまう
さて幻海は、死々若の正義論を聞いた後こう言います。
まったく同感だ 気が合うじゃないか
うん…そうですよね。私も少々同感してしまう部分があります。
特に私が疑問に思うのは、世の中で好まれる復讐のストーリーです。
幽白にはあまり復讐要素はありませんが、HUNTER×HUNTERではクラピカは復讐キャラですし、日本の漫画をはじめとした物語には復讐モノは数多くあります。
「忠臣蔵」は根強く人気がありますよね。
復讐モノでは、復讐する側は「正義」であり、読者や視聴者が復讐する側に思い入れしやすいような描き方がされることがほとんどです。
しかし…復讐ならば暴力は許されるのか?というと…私個人の考えでは、許されるかどうかまでは言えませんが、少なくとも人間の生き方として共感はできません。
ちょっと脱線しましたが、私も死々若と同じように「正義」という言葉には非常に懐疑的です。
世の中はキレイごとでは済まない部分があり、どうしても必要な暴力は存在するとは思います。
ですが、それを「正義」という言葉で飾る必要はないと思うんですよね。「必要悪」という言葉でじゅうぶんではないかと。
幻海の回答がエクセレントな件
死々若に少々同調してしまう私は、40過ぎてもまだまだ青臭いところがあるなあ…と自分で思ってしまいます。
しかしさすがと言いますか、人生の酸いも甘いも知り尽くした幻海の回答はあまりにもカッコいいです。
あんたはあたしを正義といったがそんなつもりは全くないよ
たまたま嫌いな奴に悪党が多いだけの話さ
…もーヤダ、かっこよすぎる!!!
幻海は別に正義の味方として、悪党を倒しているのではない。単に嫌いな奴を倒し続けていたら、結果的に倒した奴の多くが悪党だったと。
この幻海の「好き嫌い」で相手を倒すという単純なポリシーは、冨樫マンガではよく目にします。
正義の味方だからではなく、単に相手が敵に見えるから倒す。
主人公側のこの気取らない態度が、冨樫マンガに単純な勧善懲悪物語ではない深みを与えているんですよね。
死々若丸だけは本当におとぎ話の怨念なのでは…?
さて、少し死々若丸というキャラクターについて考えてみます。
彼はネーミングからして、牛若丸=源義経がモデルであることが示唆されています。
死々若丸は裏御伽Tのリーダー的存在で(黒幕は鈴木だけど)、裏御伽Tは裏浦島によってこう説明されます。
オレ達はお伽話の物語の中で倒された悪役や不幸な結末をむかえた登場人物の邪念によって生まれた存在だ
存在目的は正義や道徳と称し様々な矛盾には目をつぶってオレ達を葬り満足している善側の子孫や物語を読んでいる奴等に悪の洗礼を与えること
後に裏浦島は、妖狐のあまりの妖気にビビッて「自分と魔金太郎と黒桃太郎は、浦島太郎や桃太郎などのお伽話とは何の関係もない存在で、変装しているだけ」と告白します。
ですが、死々若丸はお伽話と関係あるのかどうかの説明はありません。
想像にはなりますが、死々若丸が正義にこだわることを考えると、死々若丸だけはこの裏御伽Tの設定通りの存在で、源義経の怨念から生まれた妖怪なのではないかと思います。
だから剣技が上手かったり、イケメンだったりするんじゃないかな~と。
源義経は日本史の悲劇のヒーローの一人で、平家打倒を果たした後、兄の源頼朝に用済みだとばかりに消されてしまいます。
こういう源義経のような悲劇的存在が、怨念となって人類の歴史を呪う…『ドリフターズ』がそういった内容の漫画ですが、ちょっと近いものを感じます。
死々若丸のひねくれた性格は、人間だった(つまり源義経だった)時代に兄に裏切られて非業の死を遂げた結果だと考えると、何となく憎めない気がしてきます。
魔界トーナメント編で再登場する暗黒武術会のライバルたちの中で、死々若丸だけがまだ幽助たちに対してツンケンしているんですよね。
死々若丸は時々、手乗りサイズくらいの大きさとして描かれます。
あの小さい死々若が何なのか作中では明かされないのですが、源義経は小柄だったと伝承されているため、義経のイメージには合っていますね。
まとめ
死々若丸と幻海の「正義問答」についての考察から、最後は死々若丸というキャラクターについて少し考えてみました。
幽遊白書は暗黒武術会後半から、哲学的に考えさせらえる描写が増えてきます。
それでも物語が重苦しくならず、カラッとした明るさが失われないところが魅力だと感じます。
死々若丸と幻海の「正義問答」は、ジャンプコミックス版だと10巻に描かれます。