中島みゆきさんの楽曲「最後の女神」の歌詞について考えてみます。
「最後の女神」はどんな歌?
「最後の女神」は1993年に、中島みゆきさんの代表作のひとつ「時代」のリメイク版との両A面シングル(=どちらがメイン/サブということはなく、二曲ともメイン)として発売されました。
「最後の女神」は、当時TBSで夜遅く放送されていた「筑紫哲也NEWS23」のエンディングテーマとして使われました。
うろ覚えなのですが、確か筑紫哲也さんが中島みゆきさんのファンということから、ニュースのテーマ曲をお願いした…というような記事を見たことがあります(本当にうろ覚えです)。
断定はできませんが、おそらく「最後の女神」は、「ニュース番組のテーマソング」として中島みゆきさんが書きおろした曲です。
決して明るいだけではない歌詞を、力強く明るい曲調に乗せてほがらかに歌っていて、テーマの深さとカラッとした歌い方のギャップを感じる不思議な一曲です。
「最後の女神」はベスト盤以外のアルバムに収録されてなく、中島みゆきさんの曲はオリジナルアルバムで聴くスタイルだった私にとって、「最後の女神」は聴く機会が少なく、そのため聴くたびに新鮮さを感じる曲です。
「最後の女神」のテーマは極めて難解
中島みゆき作品の歌詞は意味が深く、考え込ませるものも多いのですが、歌詞全体のテーマはそれほどわかりにくくはないという印象です。
ですが「最後の女神」は…歌詞そのものの意味も難解で、歌詞全体のテーマもつかむのが難しいです。
私にとって「難解な中島みゆき曲ベスト10」に確実に入りますね。他には「吹雪」とか「熱病」とか「サーチライト」とかが難しいんですが…。
あぁ あれは最後の女神
まぎれもなく君を待ってる
これがサビの歌詞ですが、このサビの部分も本当に何を歌っているのかわかりづらい…。
「あれ」が「最後の女神」だと言われても、いったい「あれ」ってどれのことなんだ…と。
最初に言い訳しておきますが、マジでよくわかりません。
ですが、わからないものに、何とかカンとか迫っていってみようと思いますっ!
「壊れたオモチャ」は幼い日の夢?最後に見た夢?
「最後の女神」の歌詞のテーマを探るのに、まず考察に取り掛かりたいのは、冒頭に出てくる歌詞です。
いちばん最後に見た夢だけを 人は覚えているのだろう
幼い日に見た夢を 思い出してみないか
さて、この「夢」が、眠っている時に見る夢のことを指しているのか、それとも現実で未来の理想・目標として抱く夢のことを指しているのか。
「夢」という単語は、中島みゆきさんの他の歌にもよく登場しますが、「萩野原」や「ミュージシャン」などのように、「眠るときの夢」の場合は「そっちの意味だな」とわかる文脈で使われることが多いです。
そうすると、ここでの「夢」は目が覚めている時に見る夢の方だと捉えたくなるのですが、この後に続く歌詞は…
あぁ あれは壊れたオモチャ いつもいつも好きだったのに
僕には直せなかった 夢の中で今も泣いてる
…「夢の中で今も泣いてる」という表現から、「やっぱり眠って見る夢のほうかな?」と思っちゃうんですよね。
また、この「壊れたオモチャが直せなくて泣く夢」は、「今も泣いてる」わけですから、子どもの頃に見た夢ではなく、いちばん最後に見た夢の可能性の方が高く感じてしまう…。
うう…よくわからなくなってきた…。
非常に非常に難しいのですが…ここでは、「壊れたオモチャが直せなくて泣いた」こと自体は子ども時代の思い出、その昔の思い出を夢で見たことが、「いちばん最後に見た夢」=大人になってから見た夢だと仮定します。
「壊れたオモチャの夢」=「いちばん最後に見た夢」
なぜ幼い日に見た夢を思い出す必要があるのか?
では、ここでなぜ「幼い日に見た夢を思い出してみないか」と呼びかけるのでしょうか。
ここからはめっちゃ仮説ですが…いちばん最後に見た夢は、過去の自分がオモチャを直せなくて泣いていた夢。要するに、過去にうまくいかなかったことです。
ですが子どもの頃は、まだ人生において過去が積み重なっていないので、あまり過去の夢というのは理論上、見ないのではないか。
子どもの頃は過去の夢ではなく、未来の夢を見ることが多かったのではないか…。
「いちばん最後に見た夢」は眠っている時に見た夢のことを指していますが、「幼い日に見た夢」の「夢」は、目が覚めた状態で見る未来への希望としての夢の方を指している…んじゃないでしょうかね?
実は多義語である「夢」を巧妙に使った表現なんじゃないかと…。
要するに大人になってからは、どうも夢見が悪い。過去の悲しかった思い出をよく夢に見てしまう…つまり、自分が過去の失敗や傷心に捉われている。
そんな過去ばかりに捉われないで、もっと未来に希望を抱いていた時代のことを思い出してみようよ…そんなメッセージなのかなあ…と。
ここで思うのは、「最後の女神」がニュース番組のテーマソングということですね。
ニュース番組では比率的に悪いニュースが取り上げられることが多いです。
「最後の女神」がテーマソングとして使われた「NEWS23」は深夜放送のニュースということもあり、「今日最後に見たニュース」が悪いニュースだったら、そのまま良い眠りにつけないかもしれない。
「いちばん最後に見た悪いニュース」だけを頭に入れて眠るのではなく、その前に「昔の夢」を思い出してから眠った方がいいんじゃないか…もしかしたら視聴者に向けた、そんなメッセージも入っているのかな?という深読みもできなくない…と思います。
「あれは最後の女神」の「あれ」は何?
さて、ここまで整理すると、「あれは最後の女神」の「あれ」は、「幼い頃に抱いていた未来への希望」なのではないか…という気がしてきました。
サビに入る前のBメロは、1番2番それぞれこういう歌詞になっています。
言葉にならないSOSの波 受けとめてくれる人がいるだろうか
約束を載せた紙は風の中 受けとめてくれる人がいるだろうか
この「受けとめてくれる人がいるだろうか」という問いかけに対し、サビでこのような答えが歌われます。
あぁ あれは最後の女神 まぎれもなく君を待っている
つまり、「言葉にならないSOSの波」「風の中(=守られそうもない)の約束」は、「最後の女神」が受けとめてくれる…ということでしょう。
では「最後の女神」とは何なのか…というこの歌の核心部分ですが、ここは冒頭の歌詞とリンクさせて考えるといいのかな、と思います。
幼い日に見た夢を 思い出してみないか
で、「幼い日に見た夢」を思い出したことが、「あぁ、あれは最後の女神」に続くのではないか。
誰にも助けてもらえない状況や、守られそうもない約束や叶いそうにない夢に絶望しそうな時でも、「最後の女神」=子どもの頃に抱いていた未来への希望…を思い出せば、きっと自分は救われる。
シンプルに言えば、「どんなつらい時でも希望を忘れなければ大丈夫だよ」というメッセージなのかな…。
終末ソングとしての聴き方
さて、「最後の女神」が発売されたのは1993年ですが、90年代から2000年代初頭の音楽シーンにおいては、世紀末を意識してか「世界が終わる」というモチーフが入った終末ソングが多く歌われました。
思い出せるだけでも、B’z「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」、イエモン「JAM」、GLAY「サバイバル」、平井堅「楽園」…。
「最後の女神」にも、そういった終末ソングのモチーフが入っています。
あぁ たとえ最後のロケットが
君を残し 地球を捨てても
あぁ あれは最後の女神
天使たちが歌いやめても
最後のロケットが君を残して地球を捨てるって…すさまじい絶望ですね。
また、「天使たちが歌いやめる」というのは、キリスト教の最後の審判では天使たちが音楽を奏でると言われてますから、そういった終末のイベント(?)すらも終わった、まさに最後の風景を想起させます。
この時期に歌われた終末ソングは、「世界の最後が来ても君と僕の愛さえあればいい」というような、すさまじい絶望を個人の愛で乗り切ろうというメッセージが多かったです。
ですが「最後の女神」は、ここでの解釈通り「最後の女神」=「希望」だと考えると、終末の絶望を愛ではなく希望で受けとめようというメッセージになります。
ここにどういう違いがあるか…というと、「愛」で絶望を乗り越えるには、愛する相手が必要になります。要するに「愛」では「孤独」という絶望は乗り越えられないですね。
それに対し「希望」であれば、「孤独」という絶望を乗り越えられる可能性はあります。
最後のロケットが行ってしまい、地球にただ一人取り残されるような絶望…「愛」さえなくなった世界でも、「希望」は人間の心の最後の砦になれるのではないか…。
あーそう考えれば、「希望」が「最後の女神」である理由も見えてきますね。
まとめ
実に難解な「最後の女神」の考察でした。
全然自信はない解釈ですが、ここまでの考えをまとめてみます。
…なんかシンプルにまとまってしまいましたが、もっともっと深い意味はありそうな歌なんですけどね。今のところ、私にはこれが限界かな~。
終末ソングには救いを「愛」に求める歌が多い中、中島みゆきさんは「希望」に救いを求めていることに唸らされますね。
中島みゆきさんの歌は、それこそ「言葉にならないSOS」を心に抱えている人に、やさしく響く歌なのだな~と改めて感じた次第です。
「最後の女神」が収録されているベスト盤アルバムをまとめておきます。
1994年に発売された中島みゆきさんのシングル曲を集めたアルバム。「空港日誌」が入っているのがレアですね。
1996年に発売されたベストアルバム。中島みゆきさんの代表作が14曲入っているアルバムで、「最後の女神」を聴くならこの盤が一般的にはおすすめかなと思います。
2020年に発売された2枚組のベスト盤にも収録されています。