火の鳥シリーズを順番通りに再読中!
今回は8巻「望郷編」の感想です!
火の鳥・望郷編のかんたんなあらすじ!
望郷編は、人類が人口爆発の解決策として、地球以外の星に移住するようになる植民星時代のお話です。
主人公のロミと恋人のジョージは、ロミの生まれた美しい島が人工島に改造されることを知ります(これも人口増加への対策の一環)。
そこで島の改造予算を盗んで、宇宙に逃げ、安い星を星ごと買い取って移住します。
しかしその星・エデン17は人が住めるような土地ではなく、ジョージは島の開発中に事故で死に、ひとり残されたロミは、エデン17の歴史を終わらせないことを決意します…。
ここから波乱万丈の物語が非常に面白いのですが…これ以上はネタバレになりますので、未読の方は本編でどうぞ!
「火の鳥・望郷編」はどのくらいの時代のお話?
「火の鳥・望郷編」は火の鳥シリーズの8巻目です。
火の鳥の偶数巻は未来のお話で、巻数が進むと時代が現代に近づいていきます。
2巻の未来篇が35世紀、4巻の宇宙編が26世紀、6巻の復活編が25世紀…そして8巻の望郷編は
…ん?物語のどこにも時代が書いてないぞ?
…書いていないのですが、火の鳥の構成を考えると、望郷編は復活編より前のお話ということは間違いないでしょう。
で、4巻の宇宙編に登場する宇宙飛行士・牧村が登場します。
宇宙編の牧村は282歳ですが、年老いたり若返ったりを繰り返す特異体質になるという罰を受けています。
望郷編の牧村はまだこの特異体質になっていないようで(「不死身になりたい」というセリフがある)、望郷編の牧村は見た目通り20~30年くらい生きている段階でしょう。
そう考えると望郷編は282マイナス30で、宇宙編より250年くらい前の話、23~24世紀くらい?と思うのですが…残念ながら牧村は宇宙飛行士なので何度も冷凍睡眠しているんですね。
そうすると、冷凍睡眠の時間は年齢に数えるかどうか難しいところがあるので、望郷編がいつくらいのお話なのかは特定できない感じですね。
望郷という言葉の響きの切なさ
火の鳥・望郷編の最大の魅力はタイトルだと思っています!
だって望郷編ですよ?中島みゆきの「ホームにて」という切ない歌がありますが、なぜか望郷という言葉には哀愁があるんですよね。
なぜかというと、望郷…「望む」というからには、故郷には帰れない事情があるということなんですよね。
私に「故郷は無条件で素晴らしいもの」という考えはないですが、「帰りたいけど帰れない」というのはやっぱり切ないです。
望郷編は宇宙世紀となっていて、人口爆発を解決するために植民星がたくさん開発され、人々はどんどん宇宙に出ていきます。
ですがそんな移民たちが、どういうわけだか地球が恋しくなって戻ってきてしまうらしい…。
地球からすると、人口が増えたから出て行ってもらったわけで、帰ってこられても困る、と。
そこで地球を出ていくのは勝手だけど戻るのには厳しい条件がつけられるようになり…「帰りたいのに帰れない」状況が生まれてしまいます。
エデン17にジョージとの間に生まれた男児と2人残されたロミは、冷凍睡眠を繰り返し、エデン17唯一の女性として何度も子どもを産み、その執念はエデン17の繁栄という形でようやく実を結びます。
ですが、自らが作り出したエデン17の清らかな都エデナを見ても、ロミは地球に帰りたくて泣いてしまうのです。
ロミの気持ちがわかるような、わからないような、わかるような…
エデンの住民(人間と宇宙人の混血)は人間よりずっと清らかで、小ぎれいな町にも何にも不足はなさそうなのですが…地球が恋しくなるのはきっと理屈ではないのでしょうね。
牧村がこのようなセリフを言います。
あの虚空に水滴のように浮かんだみずみずしい青い星は魅力的ですからねえ。あんなに水の多い星は核恒星系にも珍しいんだ
宇宙から見た地球の写真は本当に美しいですよね。
もっと科学技術が進んで、人間が一生のうちに一度くらいは地球を外から眺める時代になると、人類の地球愛はもっと強くなるのかもしれませんね。
望郷編は火の鳥がでしゃばりすぎな気が…
さて、望郷編はストーリー展開は抜群に面白いです。
ロミとコムの地球への旅に、ひねくれ者でクールな牧村が不本意にも地球への案内人になったり、ひとくせもふたくせもある宇宙商人ズダーバンの力を借りて地球に密入ことになったり…。
ロミの死後、ズダーバンがエデナの町に、欲望を軸にした資本主義経済を持ち込んで星を腐敗させる手腕は、嫌な気分になりながらも「なるほどなあ…」と感心してしまいます。
また、完全に滅んだあとのエデン17に、あの冷徹な牧村がロミの遺体を運んでくるシーンは胸が痛くなりますね。
何が胸が痛くなるって、牧村にはこういう一面もあるのに、牧村の人生はこの人間味のある方向へと進まず、どこかで道を踏み外して大罪を犯してしまうことが、火の鳥を順番に読んでいる読者にはわかっているんですよね…。
牧村はロミの願いを、彼のできる範囲で叶えたのになあ…。火の鳥さん、これは叙情酌量なしですか?
ていうか、望郷編はストーリーは面白いんですけど、実は私はあんまり好きではなかったりします。
望郷編は、火の鳥シリーズの中で最も火の鳥が物語に干渉してきます。
…ぶっちゃけ、望郷編のこれらのエピソードは、何だか醒めた目で見てしまいます。
何だろうなあ…「創造主とか神様みたいな存在が人間の歴史に干渉している」という世界観が、私は好きではないのだと思います。
望郷編の火の鳥の世界への干渉は、納得できないことが多いです。
アナタがムーピーを強引にエデン17に連れてきたくせに、その顛末として出来上がった町をもう少し温かい目で見守れないのか?
だいたいエデナの住民は、ズダーバンにこっそり麻薬を飲まされて欲望がむき出しになってしまったのだから、エデナの住民に罪はなくないか?
エデナの町を滅ぼすような世界への干渉ができるなら、そもそもズダーバンがエデン17に入ることを阻止すべきだったのではないか?
…まあ何より、超越的な力が歴史に干渉すること自体がやっぱり好きじゃないですね。
「見守り子育てが最強」とか言われますけど、火の鳥は世界を黙って見守っている物語の方が、私は火の鳥シリーズでは好きだなあ。鳳凰編とか乱世編とか。
まとめ
火の鳥・望郷編の感想でした。
火の鳥が出しゃばりすぎなせいで、私は望郷編がそれほど好きではないのですが、ストーリー自体は非常に面白いです。
その意味で、火の鳥さえもう少しおとなしくしてくれていれば、望郷編はもっともっと印象的な作品なのになあと思います。
火の鳥シリーズは巻数が多いので、かさばらない電子書籍で読むのもおすすめです。